春2.5-9
「睦月さーん、一緒にお昼食べませんか?」
翌日は小松の言う通り、永沢が屋上に来た。
顔を見た瞬間心臓が跳ね上がる。
落ち着け、あたし。
これは恋じゃない…
いつものように一人で喋り続ける永沢を適当にあしらう。
この時間が好きだった。
本音をぶつけても笑ってくれる永沢といるのが楽だった。
小松の言う事なんか素直に聞かなきゃいいか。
あたしは永沢を傷付けるつもりはないんだから、だったら永沢を遠ざける必要も――…
「…あ」
足音が聞こえる。
誰か来る。
永沢と一緒にいるところを人に見られるのは嫌だ。
「あたし隠れる」
「えぇ!?」
お弁当を包んで、昨日と同じように慌てて物影に隠れた。
屋上に来たのは事務所のバカ新入社員。
こいつ、本当に永沢を狙ってんだ…
まただ。
胸の奥に渦巻く黒いもやもやのせいで息が苦しい。
永沢に触らないでよ。
笑いかけないでよ。
あたしだってそんな風にしたいのに、でもできないのに…
「明日からあたしもここに来ていい?」
は!?
何言い出してんの、こいつ!
ここはあたしの場所で永沢と話せる唯一の―――
「いや、俺もうここには来ないから」
……え?
「じゃあ明日一緒にご飯食べようよ」
「…いいけど」
「やった!約束ね」
それ以上聞いてられなかった。
そうか、永沢はもうここに来ないんだ。
あの子と一緒に食べるんだ。
あたしとはもう…
「…っぐ」
嗚咽が漏れて、慌てて口を両手で覆った。
びっくりした。
泣くのなんて、いつ以来だろ。
涙なんか久し振りに見た。
きっと涙腺に涙が溜まっていたんだ。
だから涙が止まらないんだ…
そうに決まってる。
自分が傷付いてるなんて思いたくない。