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【片思い 恋愛小説】

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春2.5-2

事務所は限り無く無音に近かった。
誰にも話しかけられない状況は恐ろしいくらい仕事をはかどらせてくれて、時間を忘れるくらい集中できた。

新入社員なんかいない方がいいんだけどな。

しょうがないか。
あいつ育てなきゃいざって時にあたしが辞めらんないし。

…いざって何?

寿退社の予定はないし、間違っても育休に入る予定もない。そもそも相手がいない。

あたしに"いざ"なんて訪れるのか…

「睦月さん!」
「ひっ」

無人の筈の事務所で名前を呼ばれて、驚いて思いの他色気のない声を上げてしまった。

「まだいたんすか。戻って来て良かったー」
「…」

永沢か。
驚かせるんじゃねえよ。

「ご飯食べに行ったんじゃないの?」
「とっくに解散しましたよ」

時計を見ると、既に9:00をまわっている。
自分の集中力に拍手ね。

「帰らないんですか?」

わざわざ隣りの席に腰掛ける永沢をジロリと睨んだ。

「邪魔が入ったから帰る」
「邪魔って俺ですか?」
「そうよ」

もうちょっとやりたかったのに、ほんと邪魔な奴。

「厳しいっすね〜」

喋り方が薄っぺらい。
話す気にもなれない。

後片付けを済ませて荷物をまとめると、その顔を見る事なく事務所を出た。

「睦月さん」

小さな子供のように後を追ってくるそいつを無視してさっさと車に乗り込んでドアを閉めようとした、が、

「!?」

そのドアは華奢で大きな手に止められる。

「一緒にご飯食べに行きませんか?」
「あんた小松と行ったんじゃないの?」
「まだ行けます」
「あたし自炊するから」
「じゃあ是非ご招待を」
「図々しい人嫌い」
「俺は睦月さんが好きなんです!」

会話の流れを全く無視した二度目の告白だった。


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