『満月の夜の分かれ道』-2
「知秀は今、彼女いるの?」
「一応ね」
焼き鳥を頬張りながら何でもないことのように知秀は言った。
「そうなんだ」
千代は少なからずショックを受けている自分にちょっと驚く。
「千代は?」
「今はいない」
「そうか〜誰か紹介してやろうか?」
その質問には答えず、千代は二杯目のレモンサワーを一気に空にした。
「おっ、千代酒飲めるんだな。ここは俺がおごるからどんどん飲めよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
チクチクする胸の痛みをお酒の力で消せるような気がして、千代は知秀の差し出すグラスに手を伸ばした。
「おい千代、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」
少し飲み過ぎたらしい。千代の足元は若干ふらついていた。
「家まで送ってくよ。まだ実家?」
「うん」
知秀が千代を支えるようにしながら電車に乗る。
(こうやって一緒にいると高校生のころに戻ったみたい…)
シートに座った千代はそっと知秀の肩に耳を寄せた。
あの頃知秀はいつもデートの後千代を家まで送ってくれた。