海螢(芙美子の場合)-3
…えっ、ええ…学生時代に知り合った彼だったわ…
嘘だった。
母のあの光景を見て以来、ずっと芙美子は男性と体を重ねることができなかった。誘われた男性
がいなかったわけではなかった。強く抱きとめられ、キスもした。でも…芙美子は男性のものを
受け入れることを拒んだ。それがなぜなのか自分ではわかっていた。そして拒んだ瞬間から、男
たちは芙美子から離れていった。
…フミ、知ってる…あなたの課のキムラ係長…前の課で同じだったけど、彼ってSMの趣味があ
るらしいわよ…以前、彼が使っていたロッカーの中から、SMクラブの会員証なんて見つかった
らしいわよ…
…SMって… わざと知らないふりをして尋ね返す。
…ほら、女の人を縛ったり、鞭でたたいたりするやつ…
知っている…。だから、母が嫌いなのだ。
あの光景を見たのは、芙美子が大学に入ったときだった。髪を振り乱し、縛られた母のあの艶め
かしい姿が、ずっと芙美子の瞼に焼きついていた。忘れられなかった。
あの夜…
母屋と離れたあの古ぼけた納戸部屋は、よく手入れがなされた紅葉や山茶花が植えられた広めの
坪庭をはさんで建っていた。
あの日は友人宅に泊まることを母に告げた夜だった。
友人の都合で急に泊まることができなくなった芙美子が実家に戻った深夜だった。いつもは南京
錠で施錠してある納戸部屋から漏れる灯り、そして微かに聞こえる呻き声…不審に思った芙美子
が、納戸の壁板の小さな隙間からこっそり中を覗いたときだった…。
後ろ手に乳房を幾重にも縄で縛られ、陰部の濃艶な漆黒の翳りを晒した別人のような母がいた。
そこには男がいた…。
男の顔は見えなかったが、その黒々とした男性器を晒した下半身だけが、芙美子の目の中に
飛び込んできた。
後ろ手に縛られた母が、床の上で白い裸体を痛々しく悶えさせていた。母の乳白色のとろりとし
た乳房を上下に挟むようにきりきりと幾重にも縄が喰い込み、乳肉を厳しく緊めあげていた。
母は、その淡く靡くように渦を巻いた繁みに覆われた秘丘を前に突き出し、むちむちとした白い
太腿を左右に割り裂かれている。
別人のような恍惚とした母の表情だった…。
乳房を縛った縄は、菱形に臍から腹部へ肌を緊め、恥丘の漆黒の草むらを這うように股間の秘裂
にしっかりとくぐっていた。その股縄はしっとりと濡れた女の汁の臭いが立ちこめるような淫毛
を絡め、その陰唇をねじりながら深く裂いていた。
男が手にした赤い蝋燭が、縛られた乳房の上部にかざされた。溶け出した熱蝋が一瞬炎をあげて、
たらたらと白い肌の上に滴った。