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海螢
【SM 官能小説】

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海螢(久美子の場合)-1

…そんなはずないわ…


双子の姉が久美子にいることを母が告げたのは、母が死ぬ直前だった。
鏡の中の自分の顔を覗き込んだとき、ふと久美子は死んだ母の言葉を思い出す。

それにしても、あの写真の中の女性は、あまりにも久美子によく似ていた。



仄かな灯りの中で、裸身の女性を写した写真…彼女は、その白い裸体を縄で縛られていた…。


褪せた板敷きの床の上で、その女性はうしろ手に縛られた色白い体を痛々しく横たえていた。
しっとりとした情感のある乳房には、肌をえぐるように黒い縄がきりきりと喰い込み、艶やかな
肌の上には、暗闇の中から誰かが手にした妖しい赤い蝋燭がかざされていた。

乳房の透きとおるような白い肌には、すそ野から乳首にかけて、滴った熱蝋の赤い痕が斑に模様
を描き、胸の深い谷間へと赤い筋をつくっていた。


その熱さの痛みに耐えるように女がのけぞる瞬間を、写真はとらえていた。


唇をわずかに開いた女の顔は、虐げられる痛みを感じながらも、切なげな快感に充ちた恍惚とし
た表情を湛えている。

肌の艶やかさや顔の表情からして、年齢はまだ二十歳後半の年齢だろうか…髪型は久美子とは違
うが、顔つきや輪郭、体の線、そのすべてが久美子と酷似していた。



ただ… 

久美子と違うのは、その女の顔が深い陰翳に充たされ、瑞々しいほどの美しさを漂わせているこ
とだった。




午後八時過ぎに、勤め先の郵便局から毎日同じ時間に久美子は帰宅する。
誰もいない賃貸マンションの小さな部屋は、歳を重ねるごとにいつのまにか殺風景なしつらえに
なっていく。


わたしは、いつまでここにひとりぼっちで住み続けるのかしら…なんて、ふと思うことがある。


眼鏡をかけた自分の顔が可愛いとも、綺麗だとも一度として思ったことはなかった。まわりの人
からも、かわいい女だなんて一度も言われたこともない。


きれいになりたいとは思わないと言ったら嘘になる。自分らしく…と自分に言い聞かせるように
思い続けてきたけど、いつのまにか三十歳も半ばの年齢になっていた。
鏡の中の自分が、自分とは関係のないところで、時間だけを体に刻んでいくような気がする。


恋愛という言葉がますます遠くなっていく。いつも何かをあきらめている自分にため息がでる。
朝から干していた洗濯物を取り入れ、作り置きの簡単な食事をし、洗い物をして、お風呂の準備
をする。
気がついたら毎日同じことを繰り返していた。テレビのスイッチを入れることもなくなった。
なぜか人の声が煩わしかった。


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