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海螢
【SM 官能小説】

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海螢(芙美子の場合)-2

都内の私立大学を卒業し、この区役所で働き出してもう十数年がたっていた。
出勤した朝、まだ誰も来ていない執務室の資料部屋の壁にかかっている写真をまず見つめること
がいつのまにか日課になっていた。

いつごろからこの写真がここに掛けてあるのかわからない。額に入ったその写真の中には、海中
の暗闇の中で、微生物が揺らめくように青白い光を放っていた。釣り好きの人にこれが何なのか
尋ねたことがあった。

ウミホタルだった。深く神秘的な青白い光は、いつも芙美子の寂しさや悲しみさえ深く吸い込ん
でくれそうだった。

そして、死んだ母が病床にあるとき、寝言で呟いていたウミホタルという言葉…。
母は、いったいどこでウミホタルを見たのだろう。この写真を見るたびにずっと考えていた。




母があのことを生前に芙美子に語ることはなかった。知らなかった…ずっと芙美子は知らなかっ
たのだ。




…フミちゃん、今日はすごく綺麗じゃないの…

職場の中年のキムラ係長が、肩に手を触れながら言った。いつもそうだった。でっぷり突き出し
た腹を抱えたこの係長は、馴れ馴れしく芙美子の肩に手をふれ、ブラウスの胸元をのぞき込む。
下着の色さえうかがうような淫猥なねっとりとした視線だった。

若い頃は、そのいやらしさに恥ずかしげなしぐさを見せたものだったが、なぜかそんな男の視線
さえあまり気にならなくなった。


朝7時にマンションを出て、午後7時半前には帰宅する。朝出かけたときのままの部屋に戻る。
ずっと単調な毎日がもう何年も続いていた。仕事のあとに結婚した同僚とお茶を飲みながら話を
するのが疎遠になった。どこか生き生きとした彼女たちの姿が羨ましかった。



…フミも早く結婚したら…いろいろ選んでる余裕なんてないわよ…男なんて、いっしょになれ
ばどれも同じだって…


同僚のユミコと居酒屋でお酒を飲むのも久しぶりだった。三十五歳の誕生日を迎えた芙美子をユ
ミコが誘ってくれた。高校は違うけど、区役所の中では、数少ない女友達のひとりだった。ユミ
コは職場結婚だった。夫は同じ歳の優しそうな男性だった。
どちらかというと活発な性格のユミコが、夫をリードしていくようなカップルだった。


…いいのよ、今夜はダンナに子供まかせているから…いつも交替で保育所の迎えはやっているの
…少しはダンナにも協力してもらわないとね…共稼ぎだしね…

ユミコが小さめのビールグラスに口をつけながら、焼き鳥と香ばしく灼いたピザを頬張る。


…まさか、フミって男の人を知らないはずないわよね…

酔ったはずみで、ユミコが問いかける。芙美子は、頬を少しばかり赤らめる。


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