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【片思い 恋愛小説】

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「外はいいですよ?」
「全然」
「ほら、さっきからミツバチなんかも忙しそうにして――」
「虫嫌い」
「…」

この人には何を言っても無駄なのか?
いや、そんな筈はない。
なんとか乙女心をくすぐればいけるかもしれない!

「春は出会いの季節です」
「そうね」
「そこは認めるんすか」
「そりゃ四月だもん。ただ出会うだけならいくらでも出会えるでしょ」
「ただの出会いをただの出会いじゃない出会いにしたくないですか?」
「別に」
「せっかく出会えたのに」
「望んだ出会いじゃないし」

乙女心、くすぐれず。
鉄の女か?
さっきからピクリとも笑わないし、指先以外微動だにしないし、俺といてもつまらないんだろうけどだからって立ち去る様子もない。


睦月さんは会社の先輩。
仕事を笑顔でそつなくこなす姿勢は老若男女問わず人気があって、俺もその姿に憧れる一新入社員だった。

過去形。

憧れは意外とすぐに壊れた。

入社して間も無いある日、倉庫で一人探し物をしていると、突然睦月さんが入って来た。
話した事もない憧れの存在の登場にガラにもなく緊張して見つからない様に息を潜めた。
大量の物に埋もれてる俺に気付かずに睦月さんは幾つか棚を物色して、

「チッ」

舌打ちをした。

「…んだよ、ねーじゃねーか」

憧れとは程遠い言葉遣いの後、

ガンッ

思いっきり棚を蹴って倉庫から出て行った。


「…マジかよ」

薄暗い埃っぽい倉庫の中で見た睦月さんは、陽の当たる場所で見るそれとは真逆で、ギャップによる衝撃は半端なかった。

自分だけが知ってる睦月さんの本当の姿…

憧れは消え、でもそのギャップに失望する事はなく、衝撃は一瞬で恋心に変わった。


どうにか会話をしたくて何度もチャンスを見計らって、今日昼休みに人目を忍ぶように屋上に上がる後ろ姿を見つけて、偶然を装って後を追った。

で、今に至る。


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