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【片思い 恋愛小説】

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「あの…、睦月さん?」
「何」
「勤務中のあの笑顔はないんですか?」
「勤務中じゃないもん」
「でもいつもみんなの前でもニコニコしてて――」
「あなたの前ではそうする必要ないでしょ」
「何でですか」

睦月さんは携帯をパタンと折り畳むと、ようやく俺に顔を向けてくれた。

「これがあたしの本性だって、あなた知ってるでしょ?」
「…………いや、」
「ウソつき」
「…」
「倉庫の中であたしの独り言聞いてたくせに」
「あれは…っ」
「ほら、やっぱり」
「…」

不敵な笑みを浮かべる睦月さんは、勤務中の笑顔にはない色っぽさがあって、思わず生唾を飲み込んだ。

「俺、睦月さんが好きなんです」
「でしょうね」
「でしょうね?」
「本性知って近寄って来るから、そんなもんだと思った」
「そんなもんって…」
「それとも脅す?」
「脅す?」
「本性ばらされたくなければ俺の女になれ、みたいな」
「あー、なるほど」

睦月さんの口から飛び出した姑息な手口を聞いて素直に感心している俺をまじまじと見つめて、

「ぷっ」

吹き出された。

「あはは!何で真に受けてんの!?そこは怒って帰るとこでしょ」
「あ、そうなんすか」
「普通はね」
「いや、俺には思い付かない悪い手ですから。それより、それはありなんですか?」
「ありだったらどうする?」
「使います」
「使うの?」
「言い出したの自分じゃないですか」
「それもそうね」

観念した様子の睦月さんの前に移動して、しゃがんで目線を合わせた。

「ばらされたくなければ俺の女になれ」
「うん、いいよ」
「そこはもっと嫌がって下さい!」
「えぇ?」
「最低とか人でなしとか言われたいです」
「ドM」
「そこは否定しません」
「変な子」
「よく言われます」

睦月さんはふふっと柔らかに笑った。
それは勤務中の笑顔でも不敵な笑みでもない、でも今まで見たどの顔よりも綺麗で可愛かった。


「さ、冗談はこれくらいにして。そろそろ行くね」

そう言って、睦月さんは立ち上がって勤務中の笑顔を向けた。

「冗談!?」
「うん。お先に」

手を振って一人で帰って行く背中。

「…っ」

何か…
何だろう、何か分からない。
でも何か言いたくなった。

「あ、…睦月さん!あの、」

呼び止めると、カツン、と音をたてて足を止めてくれた。

「あの、あの…俺、…俺は本気ですよ!?」

その告白に返事は貰えなかった。
数秒止まった足は再び歩き出し、屋上の扉はバタンと閉められた。


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