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イジメテアゲル!
【学園物 官能小説】

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イジメテアゲル!-40

〜〜

 あまり大事にするのも彼女に迷惑がかかるので、そっと耳打ちをする。
 サラサラした髪からふんわりと甘いシャンプーの香りがする。甘いだけじゃなく、どこか深みのある香りは、流行のものではない。
「英助君、何で最近私を避けるの?」
 言葉の意味が分からずに彼女を見つめる英助は、代わりに黄色いリボンで結われたポニーテーに気付く。
「今日の髪型、似合ってるね……」
「ほんと? 嬉しいな。英助君にそういってもらえると、すっごく嬉しいな」
 会話のベクトルがかなり複雑に方向転換しているが、彼女の無邪気な笑顔を見せられると、それも良いと思えてくる。
「英助君、最近サボっていませんか? 私はメロンパンが食べたいのに、この前はジャムパンだったじゃないですか」
「それは二組の奴が足速くてさ、先こされちゃうんだよ」
「それなら前もってですねぇ……」
 このまま駅に着くまでおしゃべりをしていても良い。しかし、それでは千恵との約束、そして、自分の不可思議な状況がますますこんがらがりそうな気もする。
「なあ白河、どうして白河はあんな嘘ついたの?」
「あ……、えと、それは……」
 消え入りそうになる声と連動して、彼女は限られた空間でより小さくなる。
「ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいよ。別に怒ってないし、それよりも皆に誤解されたままだと困るし」
「あのね……、全部私が悪いの。あの日、英助君に助けてもらった日ね、千恵ちゃんにそのことを話したら、言葉を間違えちゃったらしくて、英助君に痴漢されたってなっちゃたの」
 知恵の名前が出た時点で大体の予想がつく。
 おそらく由美の口から男の名前が出たことに危機感を持った千恵は、その事実を捻じ曲げ、由美と英助を遠ざけようとしたのだろう。
 そして周りにいたのが美奈と多香子だ。面白おかしく話をかき回し、結果放課後の体育館裏呼び出しに繋がったのだろう。
「本当はね、誤解を解こうと思っていましたの。でも、英助君が私のいう事なんでも聞いてくれるのが嬉しくって、それで……」
 英助をこき使っていたのは、むしろ他三名。そもそも普段から美奈に躾けられていた彼には、そのことすら忘れていたのかもしれない。
「ごめんなさい。私悪い子です。英助君の人の良さをいいことに色々酷いことして……」
「いいよ、一番悪いのは久住かミーさんだろうし」
「また美奈ちゃん……」
「だってミーさん腹黒い人だし、昔はもっと酷い目に遭わされたんだぜ。あれは……」
 英助は視線を遠くに向けると、子供の頃を思い出し、噴出してしまう。
「そういうのズルイ……」
「うん、そう思うだろ? でもさ、ミーさんの場合さ、その斜め上を行くっていうか」
「そうじゃなくて、思い出があるの、ずるいです」
「え? どういうこと?」
 てっきり話に相槌を打ってくれていたと思いきや、由美の感想は別のところにあるらしい。
「英助君と私の付き合いはどれくらいですか?」
「付き合いって言われても……」
 今年からクラスが同じになったものの、梅雨前までは事務的なやり取りすらなかった。例の痴漢云々があって初めて会話したというのに、付き合いを聞かれても、答えようがない。
「二七日です。それもほとんど美奈ちゃんが一緒にいました。二人だけのときは通学電車の片道一五分だけです」
「そうなんだ」
「それなのに最近の英助君は同じ電車に乗ってくれません。まるで私を避けているように思えます」
 事実避けているのだが、この流れでそれを口に出せるほど英助も豪胆ではない。
「それは、だから、ほら、白河も変なことされたら嫌かなって思ってさ」
「さっきの言葉と矛盾します。英助君がしてないのは二人とも知っています」
「えと、でも……」
 電車がカーブにさしかかると、車内が大きく揺れる。手すりを掴んでいながらもよろめく由美は英助の胸に顔を埋めるように寄りかかる。


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