イジメテアゲル!-24
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次の日も英助は準急の電車に揺られていた。
彼がいつものように出入り口付近の壁にもたれていると、人ごみを掻き分けて由美がやってくる。
今日は青のリボンで髪を二つに結っているだけでなく、くるくるとカールされており、まるで西洋のお姫様のよう。
「おはようです、進藤君」
「おはよう、白河。今日は一段と素敵な髪型ですな」
「えへへ、セットするのに二時間もかかりました」
英助も登校前の身だしなみは欠かさない。顎の回りも産毛といえなくなってきたし、第一、糸くず一本までチェックしてくる小うるさい洗濯板女がいるからだ。
とはいえ、髪型だけに二時間もかけるのには素直に驚いた。
「似合うですか?」
「うん、似合うよ」
正直なところ、彼女ならどんな髪型でも似合うだろう。もともとの素材が良いのだし。
「そうだ、昨日の課題は終わった?」
「はい、美奈ちゃんが手伝ってくれましたから。それより千恵ちゃんは平気だったですか? 昨日も電話しただけど、あんまり話したくないみたいで……」
心から心配そうに言う由美に、英助はどうすべきかと悩む。由美にしてみれば、親友が突然そっけなくなってしまったのだ。
「久住のことはそっとしておいたほうがいいよ」
千恵の傷心を知る英助は、それ以外に方法がないことを知っている。
「どうしてです? 千恵ちゃんは私の大切なお友達なのにそんなことできません」
その気持ちが強いほど彼女の切なさを加速させる。
「進藤君は何か心当たりがないですか? そういえば昨日、なんで千恵ちゃんと一緒に戻って来たんですか?」
「それは部室に行ったから」
「進藤君も文芸部の部室に用があったですか?」
英助が図書館を中座した理由はあくまでも天文部の部室に行くためで、千恵の後を追うためではない。
「それはその、部室に行った後、千恵会ってさ。それで一緒になったんだ」
「一緒に? 千恵ちゃんが?」
千恵はあからさまに英助を疎んでいた。それは由美の目にも明らかである。咄嗟に思いついた嘘はところどころホツレが目立つ。
「ほら、俺の体操着が文芸部にあったろ? 触るのも嫌だからってさ」
これでフォローになるのだろうか。もしかしたら自分で自分の首を絞めているのかもしれないと思い始める。
「そうでしたか……」
しかし、予想に反し、由美は納得した様子で頷く。
「ほら、ミーさんってたまにわけの分からないことするからさ。それに振り回される身にもなれっての」
饒舌になる自分を薄ら寒いと思いつつも、英助は続けた。
「あはは、美奈ちゃんらしいですね……」
笑い返す由美に、英助は不思議と違和感を覚えたが、それが何か、巧く捕らえることが出来なかった。