フェイスズフェターズ 一話「欲望の都市」1-7
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褐色肌の人間達が忙しなく動き、活気の溢れるカラジュスの都市では、白人女は非常に目立つ。行き交う人々が、チラチラとリタとニコラを盗み見る。ニコラは平然と、リタはそわそわしながら都市を進んでいく。暑さのせいもあるのだろうが、周囲からの視線がやけに熱っぽいように感じられて、リタは落ち着かないのだ。心なしか、好色な目で見られているような気もする。宗教的なもので、ここの土地では女は日中外に殆ど出ることがないため、リタに集中する視線は男からのものだけなのだ。--それに、ニコラの方により強い視線が集まっているような気がして、なんだか気にくわない。そして、灼熱の太陽光がリタの気分を更に滅入らせる。
目標とするのは都市の外れに位置する教会だ。こんな南方でなければ、教会は都市の中心部にあることが殆どなのだが、異教徒の土地では慎ましくしているのが吉である。
「……貿易で栄えているのだったか、この都市は」
港から都市の中心地を抜けて教会へと繋がる大通りには、様々な店が軒を連ねていた。アモルにもあるような飲み屋や、見たこともない装飾品が飾ってある雑貨商、極彩色のフルーツなどを広げている商人もいる。それに混じって、ラクダに水を飲ませる人間達も目立つが、あれは貿易商だろう。リタの言うとおりカラジュスは教皇庁とも貿易をしている。お得意様、だ。
「金が貿易の主力商品なのよ。砂漠を越えた南の国に、こちらからは武器と岩塩を持って行って、奴隷と金を持って帰ってくると聞いているけど」
男達の視線どころか、熱烈な太陽からの視線さえ平然とした態度でやりすごすニコラが解説する。
「南の王国じゃ、冗談のように金が採れるけど、塩がまったく入手できないのよ。だから、金と岩塩が一対一で取引できる。砂漠を越える方法はどうやらカラジュスの貿易商が独占してて他に漏らそうとしないから、その貿易はカラジュスだけができるのよ」
「だから、『欲望の都市』と呼ばれるのか?」
「まあ、確かに金を狙ってカラジュスに来る人は大勢いるわ。なかには、砂漠を超えようとして途中で死ぬ人もいるみたいだけど……『欲望の都市』ってのは、それだけじゃないのよ」
西方では、広くカラジュスの繁栄ぶりが知られており、『欲望の都市』と呼ばれている。リタはその呼び名こそ知っていたが、どうしてそう呼ばれるようになったのかは知らないのだ。修道院生活から抜け出して間もないため、意外と常識を知らない。だから、言いづらそうに言葉尻を濁すニコラの意図を理解することができない。無垢な瞳が、ニコラをまっすぐに見つめる。
「……まあ、後々わかるわよ。教会に行って挨拶を済ませたら、周辺で調査をする予定だから」
「なぜ今答えないのだ」
明らかに話を打ちきりにしようとするニコラを、疑わしげに眺めるリタであったが、年の功には叶わない。後輩の抗議もどこ吹く風、先輩たるニコラは涼しげな顔で世間話を始める。