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フェイスズフェターズ
【ファンタジー 官能小説】

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フェイスズフェターズ 一話「欲望の都市」1-18

 ランプの明かりでぼうっと浮かび上がる男達の顔はみな褐色で、そしてやはり無表情だ。逃げ場所を失ったケイトは、ヒステリックに叫ぶ。「なんなのあなたたちは!」「そこを通して!」 だが男達はまったくの無反応。ケイトが思わず後ずさると、背後にいた男にぶつかってしまう。慌ててその男から離れようとすると、肩をがっちりと掴まれてしまった。そして、強引に森の中に引きずられていく。


「いやあぁぁぁ! 助けて! 助けて!」


 いよいよ半狂乱になって叫び始めたケイトに、一人の男が思いきり蹴りを入れた。下腹部に男のつま先がめり込み、苦しさの次に痛みが彼女を襲った。そして容赦なくもう一発の蹴りがみぞおちに入る。呼吸もできなくなるほどの苦痛が全身を駆け巡り、ケイトは抵抗が出来なくなる。それを確認した男達が、彼女を森の奥へと連れて行こうとしたときだ。一人の女がいつの間にか男達の背後に立っていた。


「その女性を離しなさい」


 声は荒くない。むしろ穏やかなのだが、有無を言わせぬ迫力のある声だった。黒を基調とした衣服を纏い、頭はヘジャブで隠している女だ。優雅に、だが油断無く立っており、男達を睨み付けている。常識的に考えて、女一人がこの人数の男を相手に出来るわけもないのだが、女は怯えるそぶりをまったく見せない。それどころか、逆に男達を怯えさせるような迫力があるのだ。

 立っているだけで、抜き身の剣を喉元に突きつけられているような、そんな迫力がある。


「もう一度言います。良いですか、その女性を……」


 そのとき、相談も躊躇もなく、男の一人が魔法のように現れた剣を振りむきざまに女に向けて抜いた。だが凄まじい速度で女を薙ぎ切ろうとした剣は、女の残像を切り裂くだけだった。女は、咄嗟に後ろへ跳んで残撃を回避したのだ。凄まじい反射神経だ。剣を抜いた男も、ただ腕力に任せた剣撃ではなく、効率的な剣筋を通していた。おそらく剣術の使い手だろう。だが、不意打ちにも近かったその剣を--しかもこの暗闇の中で--避けた女は何者なのだろうか? 男達もこの女が只者ではないことに気づいたのだろう。動けないケイトを放りすて、剣をその手に握る。


「大層なご挨拶ですね、全く。本当に『あなたがた』らしい……」


 先ほどの剣撃はヘジャブを掠めたらしい。はらりとヘジャブが宙を舞い、女はその顔面を露出させる。栗色の髪、白い肌に、やや垂れ下がった目。女、ニコラは不敵な笑みを浮かべながらまだ頭に引っかかっているヘジャブを脱ぎ捨て、ローブの裾裏から鞭を取り出した。恐ろしく長い漆黒の鞭だ。一定の間隔を置いて、鞭には金属の棘が生えている。ニコラが腕をひと降りすると、とぐろを巻いていた鞭はまるで生きているかのようにしなり、地面にその棘を突き刺した。


「主と子と聖霊の御名において、あなたがたを武力排除します」


 そう言ってニコラは、静かに笑い声を漏らした。


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