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フェイスズフェターズ
【ファンタジー 官能小説】

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フェイスズフェターズ 一話「欲望の都市」1-10

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 教会の夜は早い。早朝に起きる聖職者達は、日が落ちればすぐに就寝の準備を始める。都市の外、農村の近くに位置する教会も、一日を終えて休息を迎えていた。僧侶達は皆眠りにつき、動くものはひとつもない。ラテル=アノにある、歴史のよって変わる様々な様式の教会と違い、ここカラジュスの教会はひたすら地味で、小さい。強度の関係上、窓も小さくせざるを得ない。その小さな窓の一つから、何かが地面へと落下した。いや、着地した。

 都市の住民の格好をした二人の男女がそこにはいた。一人は、まるでマスクのような布--この地方ではヘジャブと呼ばれる--を着用している女だ。現地の女性用の服装であり、黒を基調としているために辺りの闇に溶けている。もう一人は少年であり、こちらは現地の人間ではなく白人だった。簡単なシャツとズボンを身に纏い、その上から外套を羽織っている。頭にはツバ広の帽子をかぶっており、帽子の下に見える髪は燃えるような赤毛だった。少年は小柄で、傍らの女よりも背が低い、幼さの残る顔立ちだが、なかなか整った顔立ちをしている。

 およそ数メートルの高さから落下したにもかかわらず、二人は平気な顔で歩き始める。


「で、ニコラ? なぜ私が男装をせねばならんのだ?」


「ニコラ? 私はジャミーラですが、旦那様?」


 ヘジャブの上からでは、表情を確認することはできない。だが、きっと彼女はあのすまし顔をしているに違いないとリタは思った。北方の白人にはまったく違いがわからないが、ニコラが来ているのは娼婦の服である。北方ではもっと扇情的な服装をしているのだが、この土地では女がそんな格好をすることは許されない。

 彼女たちは、昼過ぎにこの教会に着いた。人の良さそうな中年神父との挨拶もそこそこに、疲れていると理由づけて割り当てられた部屋に引きこもり、魔族に関する情報収集のプランを練っていたのだ。結果として、教会の人間に気取られぬように夜中に行動を起こすことになった。


「ではジャミーラ、きちんと理由を聞かせてくれないか?」


「娼婦を侍らせる金持ち白人、という設定が便利なのです。これから『そういうところ』に出向くわけですし」


 ジャミーラ、つまりニコラは『出るところが出ている』体のため、男装をしてもシャツ姿では無理がある。それ故リタが男装をしているのだ。


「旦那様、決して昼間のような失態は犯さないようにお願いしますわ。敵は教皇庁に喧嘩を売っていることを十分承知しているはず。だったら、そろそろ教皇庁が動き出すことを警戒しているでしょうから」


 そんな当然なことを言うな、と口から出かかったが、昼間に都市の大通りで喧嘩を始めようとした前科があるため、迂闊にそんなことは口走れない。リタはぐっとこらえてただ頷くだけにしておく。ようやく任務らしいことをする段階になったのだ。その直前にパートナーとの口論は避けたい。そう、パートナーだ。『姉』だった人間が、今では『相棒』なのだ。ずっと憧れていた存在、見上げるだけだった存在、その彼女とようやく対等な立場に立てたのだ。そう考えると、自然と肩に力が入っていくのがわかる。リタとて、昨日までただ聖書を諳んずるだけの生活を送ってきたわけではない。学び、鍛えてきたのだ。その結果をこれから発揮していくことになる。少女の瞳が、いつにも増して爛々と輝いてい た。

 そんな彼女の様子をわかっているのかどうなのか、ニコラはいつまでも説教を続けていた。


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