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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.The last smile-4

***



カチリ。
少しの異物音で顔を上げれば、治療室のドアが静かに開いた。
そこからは、10名以上の人がぞろぞろと廊下へと出てくる。治療に当たった医師の他に、研修医等様々な人がいたらしい。
その中の1人が、こちらに向かって歩いてくる。
「…木ノ下志穂さんのご家族ですね?」
「あ…はい…」
病院には、俺と先程電話で連絡した母ちゃん、それと志穂の母ちゃんと妹が来てくれていた。
「お話がありますので、どうぞこちらへ」
医療ドラマとかでよく見るワンシーンみたいだ、と俺は思った。
同時に、行きたくない、と思った。


案内されたのは、小さな会議室のような部屋。
1人の医師に向かって、俺達4人が並んで座る。
「まず…、志穂さんの意識不明の原因ですが、多量の出血が原因による出血性ショック状態…、まぁ、強度の貧血みたいなものと考えて下さい」
「…貧血…ですか」
「ええ。志穂さんがこちらに来た時には既に、志穂さんの体内の血液は、通常人体血液の7分の1から8分の1くらいしかなく、心臓と肺にしか血液がいっていませんでした。つまり、手足や胃、腸、その他臓器、そして脳へも血液や酸素が全く回っていない状態だった訳で、今、緊急輸血を行っています」
「…」
「今の段階では、命の助かる保証は全く無いと言って良いでしょう。たとえ助かったとしても、脳に血液や酸素が流れていない時間が長く、出産時刻から6時間半も経っているので、植物人間…もしくは半身不随になるかもしれません」
「…」
「何より問題は、何故こんな酷い状況になるまで志穂さんを放置していたか、です。もっと早く搬送されていれば…もっと…、助かる確率は高かったのに…、それが、残念です…」
「…」
医師が、うなだれるようにして顔を伏せた。
俺は、瞬きも出来ぬままに、何処か遠くを見つめていた。
今話された内容がすんなりと頭に入ってこない。
隣で、母ちゃん達の泣く声が聞こえる。
どうして泣いているんだろう。
考えて、気付く。俺も泣いていると。
どうして俺は泣いているんだろう。
考えて、気付く。志穂が助からないかもしれないと。
どうして。
「…あの…先生…」
「…はい…」
「本当に…本当に助からないんですか…?」
「…運良く、輸血で回復しても、二次的、三次的な障害が起こる確率が非常に高く、…助かっても、完治するのはまず不可能…と覚悟して下さい」
ああ。
頭の中も目の前も真っ暗だ。何も見えない。
昨日は何をしてたっけ。
…そうだ、仕事から帰ったら、志穂が食事を作って待っていてくれていた。
男の子だって、子供の性別をばらされて、どんな名前にするか2人で言い合って、結局決まらなかったから、今日2人で本を買って考えようって。
志穂は笑って、いつものように日記も書いて。
「…志穂…っ…」
ああ、神様。
志穂が何かしましたか?こんな目に合う程、志穂はあなたに何かしましたか?
ただ、普通の幸せを願っただけなのに。
神様、あなたはいないのですか?
いないから、志穂はこんな事になってしまったのですか?
…もしいるなら、あなたがいて、志穂が苦しんでいるなら。

神様。
恨みます。


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