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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.The last smile-3

それから30分程経っただろうか。
コンコンとノック音がし、白衣姿の男性2人が処置室内に入って来た。
執刀した津田医師と、綿貫の理事長だ。
2人はベッドを挟んで両サイドに立ち、志穂を揺さ振ったり、大声で名を呼んだりを繰り返す。
反応なし。
おもむろに、理事長は胸ポケットからペンライトを取り出して、志穂の目を開き、それを当てた。
反応、なし。
理事長の顔色が明らかに変わった。動揺の色を纏った理事長が、津田医師に耳打ちで話をする。
「…すみません木ノ下さん、処置をするので、外で待っていて下さい」
険しい表情の津田医師が俺に言う。
有無を言わさず俺は外に出され、中で処置が始まった。
麻酔が切れていないだけなんだろう?処置なんてする必要があるのか。
…それとも…。
激しい動悸が俺を襲う。
何だ、志穂に何が起こっているんだ。
医学なんて大学で少し習った程度で、俺はさっぱりわからないが、志穂がおかしいのは何となくわかっていた。
いったい何が。


「……え?」
理事長から話があると声を掛けられ、俺は処置室前で立ち止まり、耳を傾けた。
「…え…何…ですか?」
「…奥様の脳に異常が見られるようです。意識も回復しないので、今、大学病院の方に搬送の連絡を取っています。暫く待っていて下さい」
…脳?
脳に異常?
ちょっと待ってくれ。麻酔が切れてないだけなんじゃなかったのか?
頭の中が混乱している。
もう、訳がわからない。

訳のわからぬまま、二度目の救急車に乗り込み大学病院へと急ぐ。
救急車には、俺と副院長と見知らぬ看護師1人が同乗した。
ピーピー…
走る車内に機械音が響く。
救急隊員が、慌てて酸素マスクを志穂へとあてがった。
「心肺停止しそうです!」
「心臓マッサージ!いくぞっ!1、2、3、4、5…」
必死の心臓マッサージが行われる車内。祈る事しか出来ない俺。
志穂…。

大学病院に到着してすぐに、志穂は集中治療室へと運ばれた。
病院の静かな廊下を、ストレッチャーがガラガラとけたたましい音をたてて走り抜ける。
集中治療室へと志穂が入り、辺りはまた静寂に包まれた。
俺は治療室前に設置された長椅子に腰を下ろした。
祈るように重ねて組まれた両手が、膝の上でカタカタと小刻みに震えている。
志穂が帝王切開手術を終えて意識がなくなってから、既に6時間は経過していた。
何もありませんように。
何かあったとしても、治りますように。
志穂が元気になりますように。

神様。


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