Dear.Like to love-1
志穂が好きだ。
『友達』ではなく、それ以上として。
俺の事も好きになってほしい。
晃司や小百合やその他の人とは違う、特別な人になりたい。
志穂の特別な人でありたい。
そして、一生あの笑顔を守っていきたい。
…あぁ、わかっている。とてつもなくクサイ言葉だという事は重々承知している。
そして、俺がとてつもなくヘタレな奴だという事も承知した…。
突如、自分の気持ちが変化した昨日。立ち止まった俺は、そのままそこにぶっ倒れて救急車で運ばれるといった事態に陥ってしまった。
原因は知恵熱での急激な体温上昇による意識消失。知恵熱というところが何とも笑える。
まぁ、簡単に言ってしまえば、恋の病で俺は倒れてしまった訳で、今は自室のベッドで療養中だ。
眼前には淡いクリーム色をした天井。真ん中には遠隔操作式のシンプルな丸い電気が1つ。
その右隣には歯でギターを弾いたギタリスト、左隣にはシアトルの自宅で自ら命を絶ったギタリストのポスターが貼られている。
ギターを弾ける訳ではないが、どうしてかギタリストに憧れる俺。
悔しいが音楽は俺には向いていなかった。楽譜云々コード云々は、俺にとって解読不可能な古代文字のような感覚だ。
うん。誰にでも向き不向きはあるものだ。
恋愛だってそう。
恋愛に向いているエキスパートみたいな人もいれば、俺みたいに倒れてしまうようなドシロウトもいる訳だ。
はぁ。カッコ悪いな俺。
あ、いや、カッコいい時なんて無かったけど。ここまでカッコ悪いと、自分で自分にエールを送りたくなってしまう。頑張れ、頑張るんだ自分。
…コンコン。
軽いノック音。
「賢悟?起きてる?」
ノックの主は俺の母ちゃん。名を陽子という。
「具合どう?母さんもう仕事出るけど、無理しないでゆっくり休みなさいね。ご飯冷蔵庫に入ってるからチンして食べて」
少しばかり開けたドアから、母ちゃんが顔の3分の2くらいをこちらに出してそう言った。
「わかった。いってらっしゃい」
ベッドの上からひらひらと手を振れば、ニコッと笑ってそのままドアをパタリと閉めた。
実家通いというのは、こういう時にとても都合がいい。ご飯は作ってくれるし、勝手知ったる自分の家だし。
ふう、と一息吐き出して、再度狭い天井を眺める。
小さな頃は天井の小さな染みとかがいやに気になって眠れなかったり、天井がどんどん迫ってくるんじゃないかっていう恐怖感で眠れなかったりと、子供独特の感性から不眠になる事が時々あったが、大人になって今思うと、あの時は何やってたんだろうなと自分の行動ながらおかしく思う。
あの頃は純粋だったんだとふと思ったが、考えてみれば、人を好きになって知恵熱出して倒れるなんて、何だかすごく純粋ぽくないだろうか。
♪〜
色々と思案していれば、携帯電話が狭い自室に鳴り響いた。
♪〜
♪〜
続け様に2回。
ベッド脇の小テーブルに置いてあった携帯を腕を伸ばして取り、そっと開く。