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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.Daily life-4

「そういえば、レポートの事忘れてたけどどうだった?OKだった?」
大学を後にし、目的の街へと続く道を2人並んで歩く。
「あぁ、あん時は手伝ってくれてサンキュな。(まだ会ったばっかだったのに…)『まぁ、いいでしょう』って言われたよ」
二週間前に御堂教授に出された、膨大な量のレポート。
出会って間もないにも関わらず、志穂は何も言わずに俺のレポート制作を手助けしてくれた。
「そんな、困った時はお互い様だよ。それにしても心理学って難しいんだね。びっくりしちゃった」
「いや、やってみるとそんなでもないよ(見栄)。でも、確かにレポートは難しかったな…」
知覚心理や認知心理といった基礎心理だけならまだしも、犯罪心理だの宗教心理だの、まだ小耳に挟んだ事くらいしかないようなものまでもレポート提出しなければならないなんて、はっきり言って無茶ぶりだ。
それをさらっとやってのけるのが御堂教授というお方。あだ名に『鬼畜』も付け加えてやりたい。
「賢悟はカウンセラーになりたいんだっけ?」
志穂が上目で俺を見上げる。
「そう。何でか聞きたい?」
「聞きたい!」
「じゃあ教えてあげよう。母ちゃんがカウンセラーだからでーす」
「…」
おどけてそう言って見せれば、明るい笑顔を見せていた志穂の顔が、一気に真顔へと変化した。
目に見える心境の変化に可笑しくなる。
「いや、別にそれだけが理由じゃないよ?もちろん。わかってる?」
「え!?あっ、そんなのわかってるに決まってるじゃん!」
志穂の慌てようがまた可笑しくて、今にも吹き出してしまいそうだが、吹き出したらそれこそ志穂に冷たい目線をおくられてしまうと、寸での所でぐっと我慢した。
「俺の母ちゃんもカウンセラーしてて、結構あっちこっち回ってるらしいんだけど、その患者さんっていうか…相談相手っていうの?その人達から手紙が沢山くるんだよね」
手紙の内容全てが良い内容とは限らないが、その殆んどが『心が楽になりました』とか『来てくれてありがとうございました』というような事が書かれていて。
「薬とか処方する訳じゃないのに、人を楽にしたり元気づけたりする事が出来るって、すごい事だなって思っちゃったりしてさ…。で、俺もなれならいいなー、なんて思っちゃってる訳だよ」
自分の夢を語るという行為は、ワクワクするのと同時になんでこんなに恥ずかしいんだろうか。
心の中が丸裸になってしまった感じがして、まるで自分の恥ずかしい部分を自ら見せているような気分になってしまう。
恥ずかしさから、話をしている最中はずっと志穂の顔を見る事が出来なかった。
笑われるかもしれないし、逆に無表情でも何だか悲しい。
恐る恐る、志穂を見やる。

チクン。

痛い。
先程皮膚が日差しで刺されたように、心臓が今、何かに刺されて悲鳴をあげた。
俺は、母親以外でこんな表情を自分に向けられた事は一度もない。
こんな、愛しむような微笑、見た事がない。

チクン。チクン。

「…?賢悟?どうかした?」
人が犇めく道の往来で突然立ち止まった俺に、志穂は心配そうに声を掛けた。
二重の瞳が俺だけを見つめる。
通り過ぎる人々が、立ち止まった俺達を何事かと横目で見てくるが、直ぐ様視線を戻して自分達の目的へと帰っていく。
「…賢悟…?」

ドクン。

俺は、丁度境目に立っていた。
そこはとても不安定で、どっちにも行けてしまうのに、どちらにも行けない狭間で俺はずっと立ち尽くしていた。
そして今まさに、その境目を越えて新しい世界へと足を踏み入れたのだ。
そこは、俺にっては本当に未知の領域であり、どんな事が起こるのかもわからない恐い所。
でも、後戻りは出来ない。否、する事が出来ない。
自覚してしまったら、気持ちはどんどん加速してスピードを上げ、俺を『以前の俺』には戻してはくれない。
境目に立って、よろよろとふらついていたあの頃の俺には、もう戻れない。

ドクン。ドクン。ドクン。

志穂。
志穂が好きだ。


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