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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-3

あーあ。こんなの弁当どころじゃないよ。
あたしは屋上の扉を開け、ため息をついた。目前には端から端まで雨によって色が濃くなったアスファルトが広がっている。排水口付近には大きな水溜まりができていた。
はぁ、ともう一度溜め息をついた時、瞳から何かが零れた。それは胸に抱えていたお弁当の袋に染みを作る。
「やだ……」
慌てて目元を拭ったけれど、涙は止まり切らずに頬を伝う。
泣かないでよ、あたし。泣いたってしょうがないじゃない。
分かっているのに止まらない。あたしはたまらず空の下へ飛び出す。
体中濡れる。髪も肩も手も足もみんな。これで泣いているのかいないのか、もう分からない。

全部雨のせいなんだ。
頬を伝うものも全部、雨の雫なんだ。

あたしは自分にそう言い聞かせた。泣いてなどいないのだと。

フッと雨が途切れた。止んだのだろうか?グラウンドを見る。海のように広がった水溜まりには相変わらず絶え間ない波紋が浮かんでいる。
あれ?じゃあどうして…

「風邪、ひくよ」

上方から降ってきた声に振り返る。背が高い彼のせいで、顔を認めるには少々見上げなければならない。
「遙…」
あたしの上に傘を掲げて遙が立っていた。わざわざ傘取りに行ってくれたのか、この人は。
「ご飯は?」
再び背を向けたあたしに遙が問う。
「お腹、減ってないから…」
首を振りながら答えた。そう、と声がして沈黙が訪れる。
この間が嫌なんだ。気まずい雰囲気が。
蓮となら話が途切れることは皆無だった。馬鹿なことばかりだけど、それでも話すのが楽しくて。
ああ、馬鹿。そんなこと思っていたらまた涙が込み上げてきた。遙がいるのに。

「虹のさ、」

遙が突然話しだす。
「虹の麓には宝物があるんだって。知ってた?」
迷信だ、それ。子供の頃母さんから聞いたけど。あたしはこくんと頷く。
「あ、辿、迷信だって思ってる?」
あたしはまた頷く。
「そう。でも俺はあると思うんだ」
!?何を言いだすんだ、この人は。あたしは眉を怪訝そうに歪めたまま遙を振り返る。
「虹はどんなに追い掛けても近付けないだろ?だからって追うのをやめちゃいけないんだよ。信じるから人は夢を抱けるんだ」
何を言いたいんだろう?遙の瞳は遠くを見つめている。
「流れ星も神様の存在も同じコトだよ。希望を持たなきゃ前には進めないんだ、きっと人間は」
はい?そんな語られたってあたしには分かんないよ。
だってあたし、国語のテスト、平均以下常連なんだから……。


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