投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

はるか、風、遠くの最初へ はるか、風、遠く 3 はるか、風、遠く 5 はるか、風、遠くの最後へ

はるか、風、遠く-4

キーンコーンカーンコーン

予鈴が鳴った。
「もう戻ろうか」
遙がまた爽やかスマイルをする。果たしてこれは心からの笑顔なのか?そんなことを考えながらあたしは遙に促され屋上を後にする。
それにしても寒いな。さっき雨の中に飛び出したのが悪かったんだろうか。
とりあえず、ぐっしょりになったブレザーを脱いだ。と同時に。

ぱさっ

肩に軽い重み。脱いだはずのブレザーが肩にかかっている。えっ?
「俺の、着てて」
真っ白なワイシャツで遙が微笑んだ。
「冷えると困るだろう」


教室へ戻る。こもった空気のためか幾分暖かい。
「あ、遙…」
席へ戻りかけた彼を呼ぶ。
「これ、ありがとう」
黙って微笑む彼。やっぱり大人だなって思った。
背が高くて、細身で優しい目をしていて、いつも笑顔で。遙は見かけだけでも十分大人びているのに、性格まで紳士的なんだもんな。
でも疲れたりしないんだろうか。人に気を使ってばかりなんて。
あたしはそんなことを考えながら、唯一クラスで真っ白な服を着た青年を見つめていた。


「辿、顧問が呼んでたよ」
放課後、袴に着替えていると部室に入ってきた友達が言った。
「え?何の用だろ。ちょっと行ってくるね」
あたしは袴のまま外へ出る。軒先に連なる雨の雫。悲しみに染まって見える。
不意に胸に蘇る事実を無理矢理押し込め、先を急いだ。痛みに気付かない振りをして。

そうして、階段を昇っている時だった。

「辿!」

どきん!息を止め、立ち止まる。あたしの後を追って階段を駆け上がってくる人物。
振り向かなくたって分かるよ。ああ、できたなら。このまま走り去りたい。苦しいのは嫌……
「辿、おい」
肩に掌を感じ、笑顔を作る。無理に。真の想いを心深くに隠して。
「なぁに、蓮。そんなに呼ばなくたって分かってるよ」
振り返ったそこには複雑な顔をした蓮が立っていた。
「どこいくんだ」
蓮があたしの隣に来る。どちらともなく歩きだすあたし達。
「部活の先生に呼ばれてね。職員室行くとこ」
ふぅん、と蓮が言い、沈黙が訪れた。以前ならその存在はあたし達の間に皆無だったのに。居心地が悪い。

「お前も遙もさ…」

職員室のある三階まで登った時、蓮が話しだす。
「気、使いすぎだよ。俺と蓬が付き合ったからって俺達四人の関係は変わるものじゃないだろ?俺はこれからもお前や遙と前と同じように接していきたいんだ」
そんな、蓮。そんな簡単なことじゃないよ。
あたし達の関係は変わらない?変わらないはずはない。『恋人』と『友達』は全然違う。『好き』の意味が違う。
あたしも遙も、もう大切な人の『恋人』にはなれない。想うたびに胸が痺れるように痛み、知られてはならぬと、忘れなければと想いを押し込める。
だから、ね。傍にいたら苦しくて死んでしまいそうなんだ。今までと同じように振る舞うなんて無理だもの。


「そう思ってくれてるのはすっごく嬉しい。だけどね蓮、やっぱり気使っちゃうよ」
きつく手を握り締めながら言葉を並べる。
「付き合うってことは互いに特別な存在になるってことでしょ?友達とは違う、特別な関係になりたくて二人とも付き合ったんじゃない。誰より傍にいたいから、そうでしょう?」
そうに決まっている。だって私もそうだったから。貴方と特別な関係になりたかったのだから。


はるか、風、遠くの最初へ はるか、風、遠く 3 はるか、風、遠く 5 はるか、風、遠くの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前