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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-2

「おはよーう」
教室に入る。クラスメート等が笑顔であいさつを返してくれた。
その笑顔に交じって。ずっと近くて見てきた笑顔がこちらを見ている。
ぎゅうっと心臓が痛くなった。もう彼は、蓬のものだから……。
いつもなら真っ先に彼のもとへ走ってバシッと頭の一つでも叩いてやるのだけど、今日からはそんなことできない。出来るわけがない。だって、彼の傍には…
「おはよう」
あたしはそう彼に笑って自分の席へ向かう。朝一の恒例行事が起こらなかったことに、クラスのみんなは不思議そうな顔をしていた。


チャイムが四限目の終了を告げる。数学の先生が定規で肩を叩きながら教室を出ていった。
皆一斉にお弁当を広げたせいで教室は美味しそうな匂いでいっぱいになる。

「辿!メシ食おうぜっ」

心臓が止まるかと思った。蓮が、いつもと変わらぬようあたしを呼んだから。
四人で食べていた昼食。蓮は今日もそうしようって言ってくれるの?
ありがとう。でもね、無理だよ。苦しいの。幸せそうな二人を目の前にしてご飯なんて食べられない―…
弁当を持ち、蓮の方を笑顔で見る。ちゃんと笑えてるだろうか。
「邪魔者は退散するわよ」
「え?」
そのまま席を立って、窓側の一番後ろで困ったようにあたし達を見ていた人の手を握る。
「いこ、遙」
ほぼ無理矢理に彼をひっぱった。
「え、あ…」
遙はわたわたと弁当を持ち、あたしにされるがまま歩く。
「おい、どういうことだよ?邪魔者って」
「ばっかだなぁ」
近づいてきた蓮に答えるあたし。
「蓬と付き合ってるんでしょ。二人の邪魔はしたくないもん」
偉いぞあたし。よく言い切った。止めていた足を進める。目の前がぼやけているのが分かった。

「ごめんね……」
暫く廊下を歩いてからあたしは言った。遙は抵抗することも、不平を言うこともなくあたしの後を歩いている。
「ごめんね、無理矢理連れてきちゃって」
「いや、別に構わないから…」
優しさなのか嫌味なのか分からない。本心が見えないこんな所が苦手。
「教室、戻ってもいいよ」
てゆか戻って。やりにくいったらありゃしないもの。
「辿は?」
「屋上で食べてくる。戻りたくないから」
「でも、雨だよ」
言われて窓に目をやった。ガラスに水滴が滲んでいる。その向こうに見えるのは灰色の重苦しい雨雲だけ。
「なんとかなるよ。それじゃあ」
遙に手を振って、あたしは歩きだす。もう何でも良かった。このままだと遙の前で泣いてしまいそうで、それだけが嫌でその場を離れた。


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