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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-1

「私ね、蓮くんと付き合うことになったの」

親友の蓬がそう言ったのは昨日の放課後だった。その表情は本当に幸せそうで、あたしは笑顔で答える。
「えーっ?いつの間によ、このこのぉ」

でも。

心は泣いていた。そう、今日のこの空のように…。


今朝の空はどんよりとした雲が一面を覆っている。その暗い雲から、しとしとと雨粒が零れ落ちているのだ。
あたしは昨日の蓬の言葉を何度も何度も心の内で繰り返しながら道を歩く。

『私ね、蓮くんと付き合うことになったの』

ずきん。繰り返すたびに胸が疼く。切ないその痛みは、学校へ迎う私の足を重くさせる。
蓬が幸せになったのは嬉しい。だって、蓬が大好きだから。
でも。だけど。
できたならば、ああ神様。相手が彼でなければ良かった。どうして彼なの。
あたしだって…………蓮のことが…。

蓮と出会ったのは今年の春。高校二年のクラス換えで初めて同じクラスになった。
仲良くなったきっかけは名前。蓮(れん)、蓬(よもぎ)、そしてあたしは辿(たどる)。お分りですか?そう。みんな『しんにょう』が名前の漢字の一部なんだ。
蓬とは一年の頃から同じクラスで仲が良かったのだけど、そういう共通点のお陰であたし達はいつも一緒に居るようになった。
でも、中でもあたしと蓮は仲が良かった。そう思っていたのに。
いつもふざけあって、馬鹿しあって。蓬達はいつも微笑んであたし達を見ていた。彼らは大人だから。
だから、だからまさか蓬が蓮と付き合うなんて考えてもいなかった。不意打ち、だったんだ――…

「辿、おはよう」

玄関でぼぉっと靴を履いていると、爽やかな、優しい声がした。
さっき蓮のことを話しているときに誰か気付いたかな?『蓬達』って言ったのに。
それは仲良しグループが三人じゃないことを示す。彼を合わせて全部で四人。

「おはよう、遙」

あたしは精一杯笑って彼に返事を返した。

仲良し四人組の中で私と蓮が明るい、元気一杯の少年少女。そして蓬と彼、遙(はるか)は落ち着いたお兄さんお姉さん。あたし達二人のやんちゃぶりをいつも遠巻きに見ている二人。
だけどあたし、彼と殆ど話したことが無い。彼はよく話す方ではなく、いつもニコニコ笑っている聞く側の人間だから。
それにあの笑顔。あたしには疑問だ。だって――

「おはよう、二人とも」

聞こえた声に振り返るあたし達。雨なんて追い払いそうな満面の笑顔の蓬が立っていた。
「おはよう、蓬」
「おはよう」
足取り軽く靴を履き換える蓬。本当に幸せそう。
履き終わるとあたし達を振り返り、お先にと手を振って走っていく。
ふと下駄箱を見た。蓮はもう来ている。早く蓮に合いたかったんだな、蓬。

ちくん。

また胸が痛んだ。もう遅いのに。忘れなきゃいけないのに。
「ねぇ」
苦し紛れに遙に声をかける。
「蓬と蓮のこと、聞いた?」
ん?と首を傾げてから、ああと言う遙。
「付き合ったんだっけ。蓮から聞いたよ」
そっか、遙も知っていたんだ。じゃあ彼も辛いだろうな。
教室に向かって歩きながらあたしは囁くように言った。
「お互い、苦しいよね」
あたしは知ってる。遙も蓬が好きなこと。見ていれば分かるよ。だってあたしが蓮と騒ぐ分彼は蓬といるんだ。あんなに可愛い蓬を好きにならないわけがないもの。蓮が、そうだったように……。
あたしが蓮を好きなことは随分前に遙に話した。今思うと、唯一彼に話した事かもしれない。
そんなあたしの言葉に、遙は声を出さぬまま小さく苦笑していた。


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