はるか、風、遠く-22
今日の一日は散々だった。あたし達四人は互いに誰とも話そうとせず、お昼の時間もみんなバラバラで。
特にあたしはうわの空ばっかりで、始終先生に注意されっぱなし。それでも一限から六限まで懲りる事無くうわの空だった。
とうとう部活の時間まで終わってしまい、既に時計は六時十分を指している。今日の時間は容赦がない気がするのはあたしだけだろうか?
部室にいる友人等に別れを告げ、あたしは闇の中へ身を沈めた。
いつもなら、この後教室まで走るんだ。待っているあの人に早く逢いたいから。あの人の優しさに包まれたいから。
つい癖で、自分の教室を見上げる。明かりの灯っているはずのない、あの教室を………あれっ?
気付いた瞬間走りだしていた。もしかしたら、もしかしたらと心が弾む。
明かりが灯っていた。いつもと変わらぬ様にやんわりと。だからもしかしたら遙もいつもと同じように待っていてくれてるのかもしれない、そんな気がして。
出せる限りのスピードで風をきる。耳元でその風が「もっと早く、もっと早く」と囁いているように思えた。
「遙!」
教室に飛び込む。優しい光の溢れる場所へ。でもそこに待っていたのは、静寂とがらんとした教室だった。
「なぁんだ、消し忘れか…」
はは、と笑ってふらふらと室内を歩く。
そうだよね、いるはずがない。いるはずがないんだ。分かっていたのに何処かが苦しさを抱く。
窓側の一番後ろの席。遙はいつもこの席にいた。そうして、飛び込んでくるあたしに「お疲れさま」って微笑むの。
雨の日も風の日も、どんな時だって待っていてくれたのに……ねぇ遙、どうして今日はいないの?どうして今日は待っていてくれないの―…
かたん。
背後で音がした。びくんと振り返る。
「あ……」
全身の血液が逆流しているかのような感覚に襲われた。身体が熱い。
「辿…」
驚いたように光の中へ姿を現したのは遙だった。手には数冊の本。
「図書室、行ってたの?」
何か話したくて、そうしないと彼が消えてしまいそうで、あたしは必死に言葉を紡いだ。
「うん、面白い本見つけて読み耽っちゃった」
にこりと笑い、先程あたしが見つめていた席へと向かう彼。数冊のうちから二冊ほどを机の上に乗せる。
「本当に読書が好きなんだね、遙は」
「うん、まあね」
ほわり、と胸が温かくなった。遙の笑顔はやっぱりすごい。そう幸せに浸った瞬間だった。
「よし、じゃあね辿」
「え?」
遙がすいっとあたしを通り越した。一気に底の見えない暗がりに放り込まれた気がした。
やだ………
やだよ遙、行かないで。
傍にいてほしい…
傍にいてほしいの……