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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-21

「俺のせいだと思う」

「え?蓮、の…?」
あたしと遙は驚いて蓮を見る。蓮は頷いて続けた。
「昨日、蓬と別れたんだ」
「ええっ!?」
ああ、だから蓬は泣き腫らした顔をしていたのか。でも、だったらどうしてあたしの顔を見たくないなんて言うの?
訳が分からず、遙を見上げた。優しい表情を期待して。
だけど瞳に映ったのは、きゅっと口元を結んだ堅い表情の遙だった。
急に恐くなる。あたしの知らない遙。いつもと違う遙。
どこにもいかないで。
あたしを置いていかないで。
そう願うように遙の袖を握った。
「俺、付き合うってどんなことか分かってなかった。誰かを好きになるってことが分かってなかったんだ。辿前に言ったよな?一緒に居たいと思うから付き合うんだって」
あたしは頷く。
「俺、それも理解できなかった。だけど、やっと分かったんだ。俺が一番一緒に居たいのは辿だってこと」

「…へ?」

何かで頭を殴られた感じ。言葉が出てこない。
「辿と一緒に居ると一番落ち着くってゆーか、しっくりくるってゆーか……。それに俺、遙に妬いてた。辿が傍でいつも笑ってて、今だって真っ先に名を呼ばれて」
だってそれは、遙があたしの苦しさを分かってくれてるから。遙がいつも支えてくれているから。
「でも辿、遙とは付き合ってないんだろ?だったら俺と付き合ってほしい。俺の傍にいてほしいんだ」
「れ…ん……」
必死に出した声は擦れたものとなって空間に残る。いつの間にか力の限りに遙の袖を握っていた。
「返事はすぐとは言わない。でもお願いがある。付き合ってないのなら、もう二人で帰るのは止めてくれないか」
それは……つまり、もう遙と帰るなってこと…?待ってよ、そんな急に…。遙だって困るよね?急に言われても。そうだよね?


「…ああ、分かったよ」

全てが打撃を受ける。脳も心も神経も。
どうして?遙。どうして「分かった」なんて笑うの?一緒に居てくれるって、言ったのに。頼っていいって、言ってくれたのに。
「サンキュ、遙。辿、今日は俺と帰ろ。六時半に生徒玄関にいるから」
にこっと蓮があたしに笑った。有無を言わせる暇もなく、彼は走って去っていく。
遙の袖を握っている手が震えていた。心臓が痛くて震えていた。
「は、るか……」
冗談だって言ってほしかった。蓮には渡さないって、そう言ってほしかった。

「よかったじゃない」

彼が口にしたのは聞きたくなかった言葉。その表情はいつもの笑顔。心の痛みが大きくなる。
す、と何気なさを装って、遙はあたしの手を放させる。その瞬間、何もかもが切れた気がした。遙と繋がっていたものが全て。
「先行くね」
ふわりと風を纏って、遙は歩きだす。戸惑うこともなく、あたしを残して。

「どうして……?」
口を出る言葉。それしか思うことはない。

だって遙、あたしを好きって言ってくれたじゃない。
いいの?あたしが蓮のものになっても。
遙は平気なの?

それとも

もうあたしのこと、好きじゃないの……?
ねぇ、遙………。



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