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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-23

「っ…遙!」
教室を出かかった遙を呼び止める。
「ん?」
振り返り、立ち止まってくれる遙。変わらぬ優しい声に泣きそうになる。
それを堪えて、あたしは必死に声を出す。
「遙は…遙は平気なの?あたしが、蓮と付き合ったとしても、いいの?」
フ、と微かに口元を緩める遙。そして答えた。
「うん……」

ずきん!

激しい痛みが走った。どこに?そんなこと分からない。何故?そんなことどうでもいい。
苦しくて、死にそうで。もう何もかもメチャクチャだった。どうしたらいいか分からず、心は藻掻き苦しみ暴走を始める。

「何で?あたしのこと好きって言ったのに、何でそんなこと言うの!?頼っていいって言ったのに、何で遙が手放すの!?もう分かんないよ、分かんないよ!」
涙が溢れた。頬を伝っては床を濡らす。
「もう疲れた?あたしの面倒みるのイヤになった?あたしのこと、もう好きじゃないの?だからそう言うの!?」
苦しい。誰か助けて。ここから救い出して。辛いのはもう嫌、もう嫌だ――…
「そうじゃない」
すぐ傍で遙の声がした。直後抱き締められる。温かくて優しくて、だけど力強い腕。
「好きだよ。辿が好きだ」
だったらどうして!どうしてあたしを引き止めないの?無理矢理でも傍に置いておこうとしないの?
「でも」
遙の細く長い指があたしの涙を払った。あたしは腕の中で彼を見上げる。
「俺のことなんて考えなくていい。蓬のことも。辿は我慢してき過ぎだよ。もっと自分に正直になっていいんだ。生きたいように生きればいい」
優しい瞳があたしを見下ろしている。その中に微かな切なさが浮かんで見え、あたしは「でも」と口を開きかけた。
「俺なら」
遙が遮る。
「平気だから。言ったろう?辿が笑っているのなら俺も幸せだって。だから迷うことなんてないんだよ」
「はるか…」
絞りだした声に、遙の表情が泣きそうなものへと変わった。そして彼が動く。

ふわ……

額に柔らかく熱い何か。それが遙の口付けだと分かるまで数秒の時間を要した。
「好きだよ、辿。愛してる」

どくん!

体中が脈打つ。


微かに彼の顔に浮かんだ笑顔はあたしの心を締め付けた。
遠ざかる足音。力が抜けて、あたしはへなへなと床に座り込んだ。
しんと静まり返った空間に響くのはあたしの心音だけ。どくん、どくんと早く強く血液を押し出している。

―――好きだよ、辿
愛してる

押し寄せる何か。胸を圧迫する。遙のあの声が、あたしを好きだと囁いた。あたしを好きだと。
あたしを、愛していると――…

「は…るか…」
名を呼ぶ。でももう彼はいない。もう、傍にはいてくれない――……
「やだ……やだよ……」
再び頬を涙が伝っていく。ぽた、と制服に零れ、色濃く染まる。
「置いてかないで、遙…あたし、遙がいなきゃやだよ……遙と一緒にいたいよ」

―――…

はっ、と顔を上げた。あたし今、一緒にいたいって言ったの?蓮が告白してくれたのに、あたし、遙と一緒にいたいの?
そんなはず、そんなはずない。だってあたしは、あたしは蓮が――――…



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