10days-5
あたしが逃げたり嫌がったりしないことがわかったのだろう。
先輩はほっ…という安堵の息を吐いた。
「今更何を言っても言い訳にしかならないのは分かってる。…だけど、柚香を好きだって言うのは嘘じゃないから…っ。俺、柚香を失くすの嫌だ。」
抱きしめる腕が強くなる。
先輩…震えてる…?
こんな自信のない、弱気な先輩を見るのは初めてだ。
あたしのせい…?
調子がいいって思う。
だけど、許してしまう。
例えこの言葉さえ、嘘だとしても。
好きだから…大好きだから…。
先輩の背中におずおずと手を回す。
「あたしは…ずっと先輩が好きです。だから、そんなに辛そうにしないでください。」
見上げてきちんと目を見ながら告げた。
驚いた顔をしてあたしを見る。
「また…付き合ってくれるのか?」
不安気に聞いてくる。
あたしは静かに頷いた。
「もう、離さない…。」
そう言って羽のようなキスを落とした。
冷たい冷たい唇…っていつからここにいたのだろう。
今更ながら、そんな疑問が湧いてきた。
「あの…先輩、ここにはいつからいたんですか?」
うっ…と先輩はバツの悪そうな顔をした。
「先輩?」
もう1度聞く。
「朝…の7時くらいから。」
「…今、お昼ですよ。先輩。」
「時間の約束、してなかったから。携帯、繋がんないし…。」
解約したんです。というか
「あたしが来なかったらどうするつもりだったんですか?」
「ずっと待ってようと思って。」
「こんなトコずっと立ってたら凍死しちゃいます!」
「柚香を傷つけた罰として待ち続けるなら大したことじゃない。」
じっ…とあたしを見つめる。
これは自惚れてもいいのだろうか。先輩はあたしを好きだって。
「…もう1度、最初から始めてもらえませんか?」
もう1度最初からこの場所で…。
「折原 柚香さん、好きです。俺と付き合ってください。」
「…はい。」
〜Fin〜