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10days
【青春 恋愛小説】

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10days-1

あたしは今、16年の人生の中で1番幸せかもしれない。
「折原 柚香さん、俺と付き合ってください。」
そう言ってにっこり微笑んだ彼は、あたしがずっと好きな人だった。
藤木 久弥先輩。
「……。」
先輩に見惚れていて、ぼぉーっとしているあたしに、先輩は首を傾げる。
「駄目…かな?」
先輩の端正な顔が歪む。
はっと我に返る。
「い…えっ。駄目なハズないですっ。嬉しいです。ほんとに!」
顔を真っ赤にして、急いで訂正する。
そんなあたしをきょとん、とした顔で見た後嬉しそうに破顔して
「良かった〜。」


と胸を撫で下ろす仕草をした。


こんな事があるなんて夢みたい…。
先輩の携帯番号とメールアドレスを見つめながら、顔の筋肉が全て緩む。
先輩の情報が入った自分の携帯に頬擦りしていると突然音楽が鳴る。
〈着信メールあり〉
ディスプレイに表示され、あたしはメールを開く。
「うわ…先輩からだ。」
〈明日から、登下校一緒にしない?朝は8時に待ち合わせ、帰りはクラスに迎えに行くよ。どうだろう?〉
〈はい、嬉しいです。よろしくお願いします。〉
なんてことのない内容のメールなのに、どきどきする。

心が幸せに満ち溢れる。
「あ、そうだ。」
携帯をいじり、先輩の情報をグループ登録し、音楽を先輩用に変える。

次の日からあたしと先輩は一緒に登下校をすることになった。
緊張のあまり、自分ばかり話していた気がするが、先輩は隣で嫌な顔もせず笑って聞いてくれていた。
その日の授業は上の空で、先輩の事ばかり考えていたせいかあっという間に放課後がやってくる。
先輩はHRが終わって15分くらいしてから教室に顔を出した。
「柚香、お待たせ。帰ろ。」

残っていたクラスメートに冷やかされ、恥ずかしいと思うより嬉しいと思ってしまうあたしは重症だろうか。


学校を出て2人並んで歩く。
「くしゅんっ。」
やはり12月の夕方はかなり冷える。
「ちょっと、待ってな。」
そう言うと先輩はコートを脱ぎ、あたしの肩に掛けた。
「あの…。」
「風邪、ひくなよ。」
にかっと笑う。その表情だけで、寒いのなんて忘れてしまいそうになる。
「大きい…。」
コートを着せられ、袖をパタパタと振ってみる。自分の指先さえコートの袖に隠れてしまっていた。

「柚香ってちっちゃいなぁ。」
そう言ってふわりと包まれる。
心臓が壊れそうなくらいどきどきする。
「ほら、すっぽり入った。」
柑橘系の匂いが鼻を擽る。先輩のコロンの匂い。

「あ、ねぇ、柚香って明日からの週末何か用事とかある?会いたいんだけど。」
抱きしめたままの姿勢で聞いてきた。
会いたい、その言葉に反応して顔が赤くなる。
「いいえ、ありませんっ!もう暇で暇でしょうがないですっ!」
ぷ…っと先輩が笑う。なんか、普段より幼い表情になっている。

いつもは大人っぽい感じなのに、先輩もこんな風に笑うんだぁ〜。
意外な一面が見られて嬉しくなる。
「いやいや、ホント。柚香って可愛いよな。」
ぽんぽん、とあたしの頭に大きな手を乗せながらまた笑う。
のんびり歩いて駅に着く。
「じゃあ、明日10時にここで。」
「はい。」
もっともっと一緒にいたいけど、明日もまた会える。
そう自分に言い聞かせ先輩から離れた。


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