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10days
【青春 恋愛小説】

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10days-4

終業式が終わり、いつもと変わらない放課後。
いつもと同じように先輩と並んで帰る。
違うのは、こうやって並んで帰るのが最後という事と…これから振られるという事。
いつ言われるのか、いつ言われるのかと内心びくびくしている。
だけど、先輩はいつも通り。
気付けばいつも別れる駅に着いていた。
「じゃあ、またな。後でメールか電話するよ。」

軽く手を振り改札口に入ろうとする。
どうして何も言ってこないのだろう。
…あぁ、そうか、先輩優しいから言い出し難いんだ。
なら…あたしから言ってあげないと…。
小さく息を吐く。
「先輩…。」
「何?」
いつも通りの優しい口調。いつも通りの笑顔。
これも全部演技なんですね。
胸が苦しくなる。
「今日で、10日間です。お友達との〈ゲーム〉は先輩の勝ちです。今までありがとうございました。」
途端に先輩の顔が強張った。
まさか、バレているなんて思わなかったのだろう。
「ゆず…それ…。」

「知ってます。…あたしは3千円分の価値、ありましたか?」
にっこり笑う。精一杯の強がり。
くるっと踵を返し、逃げるように走った。
涙を見られないように。涙が零れてしまわないように。
「柚…っ!」
後ろであたしを引き止める先輩の声がした。
どのくらい走っただろう。気付けば家の近くまで来ていた。
後ろを振り返る。
追いかけてなんて…くれるわけないか。
暗闇しか見えない後方に自嘲気味に笑った。
この期に及んで期待するなんてあたしは馬鹿だ…。

その日の夜、あたしの携帯には着信とメール受信の音が何度も鳴り響いた。
だけど、それを取ることも見ることもなかった。
そしてその携帯の電源を落とし、次の日解約した。


12月24日――
〈クリスマス、会おうな。待ち合わせは俺が柚香に告白した学校の石門前!なんかロマンチックじゃない?自分達の始まりの場所で特別な日に待ち合わせするなんて。時間は、後で決めような。〉
照れ臭そうに笑う先輩。
〈はい!楽しみにしてます。〉
何も知らずに嬉しくて嬉しくて喜んでいたあたし。
約束…したのにな。

手には先輩の為に買ったプレゼント。
捨てようかな…。そう思って、ゴミ箱を見る。
何度かプレゼントを持つ手がゴミ箱の上を行ったり来たりしていたが
「…っ。」
先輩を想って買った物をゴミとして自分が捨てられるわけがなかった。
あたしは部屋からコートを出して家を出た。

向かった先は学校。
始まりが石門なら、終わりも…と思ったのだ。
石門の下にクリスマス用のプレゼントがあったりしたら、見つけた人は不気味に思うかもしれないけど…。

そのうち多分誰かがこれをゴミとして捨てて、消えて無くなるだろう。あたしの…先輩への気持ちも。
学校に着く。
先輩…ほんとに大好きでした。
心の中でそう呟いた。
鞄から、プレゼントを出そうとしたその時
「柚香…っ。」
石門の裏側から声がした途端、あたしは抱きしめられていた。
逃げなきゃ、そう一瞬だけ思ったが無理だった。
とくとくとく…。
鼓動が聞こえる。
柑橘系のコロンの匂い。
顔を見なくたって分かる、先輩だって…。
なんでここはこんなにも心地いいんだろう。


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