10days-2
「おはようございます。」
改札口から出て来て、こちらに気付いた先輩に挨拶をする。
「おはよ。ごめん、待たせたかな?」
申し訳なさそうな顔をする。
「いえ、ちっとも待ってないです。」
顔の前で手を振って否定する。
本当は30分前にはここにいた。
先輩と朝からずっと一緒にいられるということが嬉しくて、朝も早くから目が覚めてしまい落ち着かずに家にいられなかった。
初めて見る私服姿に目が奪われる。
やっぱりかっこいい…。
改めてそう思ってしまう。
そんなあたしの視線に気付いたのか、ふっ…と笑顔を浮かべて
「映画、観に行こう。」
そう言うとあたしの手をとり、歩き出した。
大好きな先輩があたしの手を握ってくれている。
手を繋いだ瞬間、手に電気が流れるような感覚を起こした。
ずっと繋いでいたいのに、映画館に着いた途端、その手が解かれる。
「ちょっと待ってて。チケット買ってくるから。」
あたしを混雑した場所から少し離れた場所に連れて行き、そう言うと人混みの中に消えていった。
繋いでいた右手をぐっと握る。先輩の温もりを閉じ込めるように。
小銭をしまいながらこちらに向かってくる。財布にセロテープが貼られているのがちらりと見えた。
「…なんで、財布にセロテープが貼ってあるんですか?」
「あ…、これ実は小銭の所少し破けててさ。でもなんとなくそのまま使ってるんだよ。」
いいのがあったら変えたいんだけどね、と照れ臭そうに笑った。
中に入り、席に座る。
少しすると、映画が始まり室内が暗くなる。
普段ならワクワクするのに、今日は先輩の顔が見えにくくなって勿体ないなんて不埒なことを考えてしまう。
映画は最近流行りの純愛モノだった。
恋をしているからだろうか。いつもなら平気なのに、やけに話が胸に突き刺さる。
いつの間にか主人公に感情移入してしまい、涙が止まらなくなっていた。
うわっ、恥ずかしい!
慌てて目をごしごし擦る。
「目、赤くなって腫れるよ?」
耳元で囁かれ、肩に手が回される。
トン…ーーあたしの頭が先輩の肩に乗せられた。
驚いて涙が引っ込む。
髪を梳くように、優しく頭を撫でられる。
暖かくて、居心地が良くて、安心できる…。
映画が終わるまでずっとそのままでいた。
「今度、感動モノを観る時は少し暗くなってからにしような。」
笑いながら言う。
ここは映画館近くの公園。
泣き腫らしたあたしは、街中を歩くには恥ずかしい顔になっていた。
「すみません。」
自分の失態に先輩の顔がまともに見られない。
先輩は、隣に座り、あたしの頭をくしゃくしゃっとした後
「素直に泣けるのって良い事だと思うよ?」
と甘い顔をして言った。
「そうだ!」
突然、思い出したように先輩が手をぽんっと打つ。
「クリスマス、空けておいてよ。」
「クリスマス…ですか?」
「そう、24日。絶対予定入れないでよ。」
1週間後の約束。それはまるで幸せな未来の約束みたいであたしの顔は自然に綻んだ。
落ち着いてからは散歩して買い物をする。
先輩と一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう。
帰り際
「クリスマス、会おうな。待ち合わせは俺が柚香に告白した学校の石門!なんかロマンチックじゃない?自分達の始まりの場所で特別な日に待ち合わせするなんて。時間は後で決めような。」
念を押すように言われた。
「はい!楽しみにしています。」
特別な日の待ち合わせ…。その日の先輩の相手が自分というのに心が震える。
ずっとこの幸せが続くといい……ーー。