片割れハートがぐるりと回る-5
「サク」
「なに」
「お前さ、例えば付き合おうって言ったのがユキじゃなくて俺だったら、どうした?」
は、い?
「……なにをおっしゃるうさぎさん」
「残念、俺はトラさんだ」
「オトコはつらいよ?」
「オンナも辛かろうけどな」
そんなわけのわからん会話とは裏腹に、トラ兄の手のひらが、私のほっぺたを挟む。朝みたくつまむんじゃなくて、なんていうんだろ、ただ触れるだけ、くらいの優しさで。うわ、なに、これ。
「と、とら、にぃ?」
「なんだいサク」
「なんか、空気がやらしい。セクハラっぽいです、先生」
「まだ何もしてねえのにセクハラとかいうな。言われ損だ」
「別に損じゃないと思うけど……あの、」
「なんだい」
「……トラ兄はもしかして私にフォーリンラブとかそんなのは、頭の悪いサクラコちゃんの思い過ごしだよ、ね?」
私の質問にトラ兄は一瞬のきょとん、のあと、にやりと笑った。そのまま、言葉では答えないままに、やっけに真面目なトラ兄の目が、レンズ越しの目が、ゆっくり近づいてくる。
私とトラ兄の間にあった空間が埋まっていく。知ってる。これ、ちゅうする、ときみたい、で、
「(あ、うあ、や、ええええと、あの、えええええええっと、あ、うわああ、わわわわわわっ……!)」
がしゃーーーーん
今度は声じゃない。ほんとに何かが割れた音。びっくりして、振り向いて、予想通りの人物が予想外の表情でそこに立っていることを知る。