キミに不時着する日-4
ところで。
私の目の前で、『十六歳、はじめてのチュウ』を枕にうとうとしているこいつ、名前をユキヒコといいます。漢字で書くと幸彦。なんちゅう幸せな名前かと、私がこいつのもっているもので羨ましく思うものの一つです。サクラコ、ユキヒコ、で、なんだか音が似ているのが非常に嫌です。
私は彼を主に『ユキ』とか『ゆっちゃん』とか『ゆうのすけ』とか『ゆきぐにまいたけ』とか呼びます。その他のひとは『アリカワくん』とか『おいアリカワ』とか『ちょっとそこの人』とか呼びます。何が言いたいかってユキの名字はアリカワだっていうことと、基本的にこいつは友達がいないということです。空気が読めない・暗い・キチガイが三点セットで友人いないコースまっしぐら。
なにが悪いかって、それが外見でないことは確かなのだけど。いや前髪は長いけど。黒髪が目をぎりぎり隠すか隠さないかチラ見えが萌え!ってこともないけど。顔は悪くないのだ、顔は。
つか、寝るな。可愛い幼なじみがわざわざ遊びにきてやってるのに、寝るな!
「ちょっと、ユキー」
「んんー……」
「寝ないでよー、もっとほら、慰めるとか、励ますとか」
「んー……」
「窘めるとか、鑑みるとか、訝しがるとか」
「……」
「おーいーユキー。ゆっちゃーん。おーきてよ!ゆーきーぐーにーまーいーたー……」
「それやめないと、刺す」
「(刺される!)」
もぞもぞと起きあがるユキくん。どうやら刺される危機を私は無事に回避したらしい。ほっ。