レッド・レッド・レッド-27
「しっかし、この杯」
(赤き雫っていうのは、何なんだ?)
エイジは首を傾げる。
こういった遺跡の中での意味深な言葉は、トレジャーハンターの頭を悩ませる。
もっとも彼らにとっては、そんな暗号解きも楽しいものだ。
また長くトレジャーハンティングをしていると、言葉のパターンも掴めてくる。
こういった場所で『赤き雫』といわれたならば、やはりローゼンロットと同じく『血』だと考えるのが普通である。
だが、結果は先のとおりだ。この遺跡の意図するものは『血』ではないらしい。
「処女の血でも駄目ってなると……」
エイジが考えながらぼそりと言うと、ダナが彼の肩を叩いた。
「ちょっとエイジ、エイジ」
「?」
疑問符を浮かべるエイジに、ダナは小声で言う。
「セクハラよォ、それ」
もっとも小声とは言っても、それはしっかりジャムに聞こえていたが。
エイジは思わず口を噤み、ジャムを見つめる。
彼らの視線に、ジャムは半ば怒ったように声を上げた。
「な、何よ! 処女で悪かったわね!」
「いや、別に悪いとは言ってな……処女なのか?」
「―――ッ!!」
「でッ」
ばし、と音を響かせて、ジャムはエイジの頬に平手打ちを繰り出した。
ジャムは顔を真っ赤にしながら、彼女の足元に置いてあったダナのバッグから、ミニ救急箱やペンライトなどをエイジへと投げ付ける。
「じょ、冗談だ! ものを投げるな!」
「うるさいうるさいッ!」
最後にジャムが投げたものが、エイジの額にクリーンヒットした。
その場に仰向けに倒れたエイジに、ダナは十字を切る。
「痛ぇ〜……何だ、水筒か?」
頭を擦りながら起き上がり、エイジはジャムの投げたものを拾い上げる。
「あ、それ」
エイジの手に取った水筒を見てダナが言った。
「ぶどう酒なのよォ。ルーが持ってたいいヤツをちょびっとくすねてきちゃった♪」
「お前な……」
水筒を手に、呆れた様子でダナを見やるエイジ。
ダナは、彼がやってもちっとも可愛くない仕草で、ちろりと舌を出して肩を竦めてみせた。
「だってだって、真っ赤でキレイな色してたからァ、凄く美味しいんだろうなって」
しかし彼の言葉に、エイジもジャムもはっとする。
エイジは目を瞬かせて水筒を見つめ、呟いた。
「真っ赤で……」
「エイジ、赤き雫って」
「もしかして?」
三人は互いに顔を見合わせた。
そして同時に頷くと、エイジが緊張した面持ちで水筒を手に杯を覗き込む。
薄っすらとあった血痕は、今はもう消えていた。
「じゃあ、行くぞ」
エイジは言って水筒の口から、紅色の酒を杯に注いだ。
杯の三分の一ほどまで入れて、エイジは水筒の口を閉めて息をつく。
これが間違いなら、またあの幽霊が現れて今度はエイジ達を襲うだろう。
三人はどきどきと胸を鳴らせながら待った。
「な、何も起こらな」
エイジが言いかけた、刹那。
それは、突然だった。
がくん、と三人の身体が大きく揺れ――三人の立っていたその地面がぱかりと割れる。
当然身体は重力に従って下へと落ちていく。
「「「え? ええええええええッ!?」」」
奈落の底へ落ちていく感覚を覚え、三人は思わず疑問を孕んだ叫びを上げたのだった。