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ジャム・ジャム・ジャム
【SF その他小説】

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レッド・レッド・レッド-26

「……ねェ、変な声がしない?」
ふと、ダナがジャム達を見つめながら傍らのエイジに問うた。
エイジはその言葉に耳を済ませる。

『ヴルルルルル……ヴルルル……』

確かに、どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。
風が鳴いているのだろうか。背筋をぞっとさせるような声だ。
それはローゼンロットにも聞こえたようで、彼女達は胡乱げに辺りを見回した。
「!!」
そしてこの場にいた六人は、その不気味な姿に思わず身体を強張らせた。
不気味な声の正体は――半透明の歪んだ顔をした、幽霊。
「どわああああッ!!」
「きゃああああッ!!」
ぞろぞろと壁の中から出てきたそれは、ナイフでも鞭でも拳でも通用しなかった。
スカーレットがジャムの身体を拘束したままでバラ鞭を振るうが、幽霊らしきその物体には効かなかった。
ルビィもレッドもである。
それぞれの得物で応戦するが、鎖や鞭は半透明な身体をすり抜けていくばかりであった。
「こ、こっちに来るな!」
そしてそれは、明らかにローゼンロットを狙っているらしかった。

『生贄……生贄……』

呟きながら、三人の女に迫り来る幽霊達。
「「「う、うわああああああ!!」」」
その不気味さに彼女達はジャムを放って、思わずその場から逃げ出した。
ぞぞぞ、と次々に壁から姿を現した幽霊達は、皆逃げた三人を追っていく。
やがて幽霊達がすっかりいなくなると、残されたエイジ達は呆然と彼らの去った方を見つめていた。


「……行っちゃった」
ジャムがぺたり、と地面に座り込んで呟いた。
その言葉にはっとしたエイジとダナは、彼女の元へと駆け寄る。
「大丈夫、ジャム?」
「どこ切られたんだ?」
エイジがその場に落ちていた自分のナイフを拾い、ジャムの前に屈み込んで言った。
「痛むか?」
「ん……ちょっと」
彼が問うと、ジャムは苦笑して言った。
ダナがすかさずウエストバッグから絆創膏を取り出し、ジャムの頬に触れながら言う。
「消毒薬ってないンだけど、とりあえずこれ貼っておくわね」
絆創膏で傷口を塞いだダナに、ジャムは軽く礼を言った。
そして彼女はエイジの方を向く。ジャムの視線はエイジの手の甲に注がれていた。
「ああ。こんなん唾つけときゃいい」
言って、ヒールで踏まれた跡をエイジが舐めた。
皮は剥け真っ赤に腫れているが、この薄暗い中では光を当てなければ見えることもない。
エイジはダナから包帯を受け取ると、手の甲にそれを巻き付ける。
(くそー、痛えよ、本当は!)
皆を心配させないため、というよりはエイジの男の意地である。
さて、とダナはやおら立ち上がると、辺りを見回しながら二人に言った。
「というかアタシ達、あいつらを捕まえるのが目的だったのよね?」
「「あ」」
顔を見合わせて、エイジとジャムは声を上げた。
エイジはがりがりと頭を掻きながら、立ち上がる。
「仕方ねえ。本当に『若返りの水』でも手に入れておくか」
「そォね。いつかまた奴らをおびき出す時のエサにもなるしね」
ダナも苦笑した。
正直にいえば、誰も二度とローゼンロットに会いたくないと思っていたが。

やれやれといったふうに息をつき、エイジは杯を覗き込んだ。
不思議にも、古びた様子の杯の中には、ジャムの血が薄っすらと残っているだけだった。


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