過激に可憐なデッドエンドライブ-34
「…叔母上と比べるのは余りに無体というもの。叔母上は希代の術者でしたから…。それに我が一族も千年の時を経て血が薄れていったというのもあるでしょう」
「それは違う。他の堕神はともかく、お前たちには永久制約術式がある。力が衰える事はあるまい」
夕子の目付きが鋭くなる。
「そのようですわね。姫様に会われたせいか、鉄也さんの魔力が桁違いに強くなっていて驚きました。しかも、まだ変化している途中のようです。あの年で血が出るなんて、凄まじい苦痛を伴うでしょうに」
「そうか。では、鉄也は私が貰う」
リリムレーアがそう言うと一層強い沈黙が空間を支配した。
「お断りします」
にこやかに微笑みながら夕子が言った。
なんとなく予期していた答えだった。
「一応、言っておくが私はリリムレーア・イシス・ドラグーンだぞ」
ドレスを身に纏っているにも関わらず、一糸乱れぬ姿勢で正座するリリムレーア。
「そうですか。では、竜族の姫君と知った上でもう一度、お断り致します」
それがどうしたといわんばかりに夕子が答える。
「鏡子様と同じ道を鉄也さんに歩んで欲しくない。先代様が倒れられた今、我ら一族の総意でございます。鉄也さんはどう思っているのか知りませんが、私にとってはかわいい弟のようなものですので」
「…」
リリムレーアは何も答えない。
「大体、今のあなたに手を貸す理由がありませんの。いい気にならないでくださいね。小娘が」
バン。
突然、襖という襖が勢い良く開かれた。
ダダッ。
そして、雪崩れ込むように入ってくる黒服の男達。
その数は二十といったところか。
手には鈍く光る拳銃を持っている。
「…二人だけの話とはよく言った」
「ほほほ。昔から茶室とはこうやって使うための部屋ですのよ。もっとも家のは少し大仰ですけれど」
大勢の男に囲まれながら、しかしリリムレーアは顔色一つ変えずに座っている。そのたたずまいは堂々たるものだった。
「もう一度言う。鉄也を私の家来にする」
勝ち誇った顔をしていた夕子の頬がひきつる。
「…嫌だわ、状況が理解できないのかしら。竜族とはいえ、成人前のあなたにこの人数は倒せないでしょう? 術者を連れてこないのがせめてもの、」
「テツヤだけではなく、この焔一族の全ての力を貸してもらいたい」
夕子の声を遮って、リリムレーアが大きな声で言った。そして、その目を光らせて周りの男達を見渡した。
「…バカな子」
夕子は扇子を閉じて、高らかにかざす。
カチャリ。
それを合図に、あちこちで拳銃の撃鉄を落とす音がした。
「最期に、お聞きします。なぜ私達を必要となさるのか」
今にも引き金が引かれようとしている中で、リリムレーアは落ち着いた声で言った。
「復讐ではないと言えば、嘘になる。しかし、全く大義がないわけではない。私が天界をまとめなければ、災いはこちらにも来るのだから」
天界。
それは、人間の住む世界より高次元にある異世界。
人間達が古くから信仰する神話やお伽話の元になった世界である。そこでは神族や魔族が暮らしている。
その天界で王となっていたのが竜神だった。
「私達を連れて天界に攻め込むつもりでいらっしゃる?」
「いずれは。人間界から天界に行ける者は限られている。堕ちた神か、お前達のような、その末裔だけだからな」
堕ちた神とは、天界から何らかの罪を犯して人間界に追放されたものたちである。