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ふたまわり
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ふたまわり-6

「分かりました、社長。それじゃ、来週にしましょうか。」
「でな、五平ょ。今夜は、あの三人を慰労してやってくれ。ここのところ、会社に寝泊りしているようだからな。」
「分かりました、最近忙しかったですからね。」

「でな、中山のことだ。毎月、ピーピー言ってるみたいじゃないか。時々二人に、昼飯を奢られてるみたいだしな。家族問題じゃないか、と俺は思ってるんだが。」
「中山のこと、ご存知でしたか。気にはしてたんですが、つい忙しさにかまけまして・・」
「聡子に話しておくから、軍資金はたっぷりと持って行ってくれ。飛びっきりの所へでも、連れて行ってやれょ。金の使い道に困ってるだろう、みんな。俺たちと違ってな。」と、含み笑いを見せる武蔵だ。

三人を引っ張り出したとき、どっぷりと日が暮れていた。時計を見ると、七時近くになっていた。伝票整理に追われてしまい、五平自身の仕事が片付かなかった。武蔵は、帰宅している。
「五平、いい加減に切り上げろょ。」
武蔵に声を掛けられてから、一時間近く経っていた。三人は、所在無くそれぞれの机に座っていた。山田、服部の二人は、これからのことを色々と詮索しあっては、ニタニタと笑っている。しかし中山だけは、何やら電話口で深刻そうな表情をしていた。

「済まなんだなぁ、遅くなって。それじゃ、行くか?」
「はいっ!お供します。」
二人は大声で応えながら、すぐに立ち上がった。中山も慌てて受話器を置くと、席を立った。そして五平の机の上に、
「これ、電話代です・・」と、小銭を置いた。
「そんなもの、構わんさ。今まで、待たせてしまったんだから。」
「いえっ。私用の電話ですから・・」
「律儀な奴だな、お前は。ま、いい。さっ、それじゃ行くぞ!」

ハイヤーに乗り込んだ五平は、
「銀座だ!」と、告げた。
「うひょお!銀座だって、おい豪勢だぜ、銀座だぜ。」
「ということは・・ひょっとして・・ナイトクラブとか、ですか!」
大騒ぎする二人に、五平は慇懃に答えた。
「あゝ、そうだぁ。社長に頼まれたのさ。お前達を遊ばせてやってくれ、とな。今まで二年間、良く頑張ってくれたからなぁ。

「感謝、感激、だぁ!なぁ、中山ぁ。おい、どうした?元気がないぞ!妹か?」
「あぁ・・・」
中山の力無い声が、五平の耳に届いた。
「妹がどうした?嫁にでも行くのか?」
五平の軽口に、山田・服部の二人は苦笑した。しかし、中山は沈んだ表情のままだった。

「なんだ、どうした?」
「いえ、何でもないです。」と、中山が小さく答えた。
「中山、話せ話せぇ。入院、してるんだろうが!」
「そうだぞ。もうお前だけでは、手に負えないだろうがぁ。」

「で?どこの病院なんだ。」
「はあ・・近くのかかりつけで。診療所みたいな所です。」
「馬鹿野郎!なんで、大学病院に入れないんだ!何をケチってるんだ、お前は。しっかり貰ってるだろうが。」
五平の大声に、運転手がビクリ!と体を震わせた。
「すまん、すまん、運転手さん。おぉっ、ここで良いょ。停めてくれ。」

立ち並ぶビル群の一角に、それはあった。煌々と輝くネオンの看板を、三人は等しく眩しく見た。未だバラック建てが多い中、ここ銀座は異世界だった。すれ違う人の多くは、進駐軍の兵士だった。シャッターの下りた軒先でたむろしている街娼達は、兵士にしな垂れかかるようにしている。

辺りも憚らずに口を吸いあっている、街娼もチラホラ居た。
「あの娘らを、見ろ。ウィスキーやらチョコレート欲しさで、操を売っているんだぞ。それらを、俺達は商売してるんだ。」
三人には、五平が言わんとする意味が理解できなかった。五平にしてみれば、戦前の女衒時代が思い出されてしまう。


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