「demande」<槙惣介>-9
「ホラ、また」
惣介は七香の顎にそっと触れ、俯いた顔を上げるように促した。
「沈んだお顔は似合いません。元気出してください」
―――!か、顔が近い!
自分の顔がどんどん熱っぽくなるのを感じ、赤面してるんだと思い知らされる。
「わ、わかったから…っ」
惣介の指から逃れるように顔を左に向けた。
「…すみません、つい…。でも…あの、手袋はしてますので…」
手袋はしてます…って…素手が汚いみたいな言い方…。
「そ、そういう意味じゃないよ!……私、男の人に触れられるのに慣れてないから…」
言ってしまって恥ずかしかったが、それよりも先に惣介の顔色を伺ってしまう。
また悲しい顔はさせたくなかった。
惣介は小さく頷き、優しい微笑みで七香を見つめた。
「勝手に触れてしまって申し訳ありませんでした。お嬢様の嫌がることだけはしたくありません。
以後、気をつけますのでお許しを―」
そう言って胸に手をかざし、丁寧に頭を下げた。
全身闇でできてるような黒のその姿は―――とてもかっこよくて…目がくらんだ。
「い、嫌だなんて言ってないよ…。ただ…ちょっと恥ずかしかっただけで…」
「…お嬢様はとても可愛らしい方なんですね」
!!
…なぜこんなこと真顔で言えるんだろう…。私は心臓がバクバクするばかりで、
惣介の顔すらまともに見れなくなってるというのに…。
あ……そっか。
お仕事だもん…。
私だけに言ってることじゃないもんね…。
これくらい……誰にでも言ってるよね…。
「…お嬢様?」
「あの………」
「はい」
「あなたも…その…、仕事のためなら……誰とでも……その…」
七香はそこまでしか言えなかったが、惣介にはその先がなんとなく予想できた。
さて…なんて答えるべきかな…
この子は繊細で…プライドが高いんだと気づいた時から、彼女を傷つけないよう配慮はしていた。
この質問の返答には、充分気をつけるべきだと慎重になる。