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『お宝は永久に眠る』
【ファンタジー 官能小説】

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『お宝は永久に眠る2』-4

「人が欲に惑うのではない。欲が人を惑わせるのだ。純粋な殺意よりも、消しても際限なく湧き出すそちらの方が余程性質が悪い」
 それを知るが故に、メニールの心境は重苦しい。
 誰も決して貧しい生活など望まない。お金はあればあるだけ嬉しいのだろうが、それが過ぎれば誰かから妬まれる。時には猜疑に駆られた者に財どころか命まで奪われ、栄華を一瞬にして失うことも。
 そしてまた、その妬みと猜疑は連鎖してゆく。
 終わりのない捻り輪の如き無限地獄。
 だからと言って、人は財を投げ出すこともなく、連なる鎖を断ち切ろうともしない。だから、疎むべきは人か欲かどちらなのかを悩む。
 顔を上げれば、メニールに問いかけるジェイドの視線があった。
『なぜお前はそんな道を進んだのか』
 そう問いかけてくる。
「それは……あッ」
 答えかけて、慌てて声を上げる。
 前を見ずに歩くジェイドの腰の辺りに、ちょうど彼はいた。
 砂漠では只ではない大切な水を瓶(かめ)に得たばかりの、良く言えばみすぼらしい、悪く言えば薄汚い少年だ。
 ジェイドが少年とぶつかり、少年が倒れた拍子に瓶の水が大地に注がれる。熱を吸収した砂は直ぐに水を蒸発させ、黒く濁っていた地面は元の砂色に戻る。
 夏季の石畳よりも暑いであろう地面に尻餅をついたまま、少年はぶつかってきた相手を恨めしげに睨む。
「す、済まない……」
 ジェイドが謝るも、一度零れた水は戻ってこない。
 少年も、一度睨み付けた限り弁償を求めることもせず瓶を拾い上げた。
 たぶん、例え悪いのがこちらであっても、まだ十二、三の少年が大の男に突っ掛かっても敵わぬと理解しているのだろう。褐色の肌で分かり辛いが、体の汚れとはつかぬ紫の斑点が顔や腕に見え隠れする。
 周りを見れば、少年のような姿の子供が空き缶を置いて日陰に座り込んでいた。乞食をして食いつないでいる孤児に、強者に抗う術はない。
「待ってくれ。君は、この町に居て長いのかな?」
 悲しみを背負ったまま立ち去ろうとする少年を、メニールは呼び止める。
「……生まれてから、ずっとだよ」
 少年が立ち止まり、顔だけをこちらに向けながら答える。
「相方が申し訳ないことをした。僅かだが、これで許してくれ。それから――」
「お、おい。別に水ぐらい、お前なら直ぐに出せるだろ。ワザワザ金を払わなくても……」
 この砂漠で事を進めるために必要な金を手渡そうとしたメニールに、ジェイドの制止がかかる。
「――この街は初めてでね、右も左も分からないのだよ」
 ジェイドの声を聞かず、メニールが言葉を続ける。
 言いながら少年の手に置いたのは、千ジュリー金貨を四枚。零した水を十杯買ってもお釣りがくる金額だ。
「ガキには多過ぎる」
 ジェイドも乞食だからと見下して言ったわけではないのだろう。
 メニールならば、水の一杯や十杯を取り戻すことなど朝飯前である。
「不得手とは言え忘れないでくれよ。いくら歴代の錬金魔術師を凌ぐと謡われた私でも、無から有は生み出せない。ましてやこの砂の大地で、瓶一杯分の水を生み出す元はどこにもないのだからな」
「…………」
 錬金術の基礎的な部分を持ち出され、ジェイドは二の句が次げずに黙り込む。
 確かに学業時代も錬金術の教科は落第ギリギリ、努力のお情けだけで進級していたジェイドだ。
 錬金術の基盤が無からではなく有からの構築であること忘れることもある。
 要するに、存在する原子を化合して分子から物質を作り出さなくてはならない。それでも、地面に零れた水の分子と大気中の原子で取り戻せる実力を持ち合わせているはずだ。
 あえてメニールがそうせず金で解決したのは、己の実力を周囲に悟られたくないからである。
「それに、地理に疎い私達の案内役も出来たからな。それじゃあ、最初は情報収集といこうか。えっと……」
 少年に振り向いたメニールが口籠る。
「あぁ、僕はセルビー。皆からはそう呼ばれてる」
「セルビーか。よし、じゃあ最初は酒場に案内して貰えるかな?」
「着いて来て、この街は裏道まで僕らの庭みたいなものだからどこへでも案内するよ」
 お金を手に入れた子供というのは現金で、セルビーが元気良く先陣を切って歩き出す。
 スルスルと人混みを縫って進むセルビーを必死に追いかけながら、砂漠の街には数少ない酒場へとやってくる。
 情報収集の基本は、人の集まるところだ。
 案の定、小競り合いを終えた他国軍の男達が酒を飲み明かしていた。


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