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『お宝は永久に眠る』
【ファンタジー 官能小説】

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『お宝は永久に眠る2』-6

「ありがとう。それでは、そろそろお暇しようか――」
 コーンスープを飲み干して立ち上がろうとしたメニールと、ジェイドの隣に一組の男女が二人を挟み込むように移動してくる。
「待ってくんな、お嬢さん方。ちょっと酒の肴に話でもしようや」
 第一声に、二人より少し年上の男が呼び止めてくる。
 ターバンに旅装束という、砂漠の行商人といった出で立ちの長身で痩躯の男。ただ、旅装束から露になった腕は無駄な贅肉が削ぎ取られ、細くも隆々とした筋肉が付いている。ジェイドよりも頭ひとつ分、上から――世間話をしようとしているようには見えない――険しい表情で見下ろしてくる。
 女の方はメニールよりも小柄で、男の胸まであるか無いかという体躯にベレー帽を被せている。顔立ちは幼く見えるが、ジェイド達と同年ぐらいだろう。肩からは体躯に似合わぬ大きなボストンバックが下がっていた。
「あんたらどこから来たんだ? お嬢の方はどこかで見たことのある顔なんだが」
 顎に手を当てる仕草から、男がメニールの正体に気付いていないことが分かる。
 ここで名前を名乗るのは得策ではないだろう。それに、メニールが【赤鬼】の異名を持つ錬金魔術師兼世界中から指名手配されている賞金首だとバレれば、それこそ周囲から付け狙われる。
 王国のやり口として、歩く治外法権のメニールを捕らえるには、賞金首として指名手配して他の賞金稼ぎ達に首を狙わせることだ。それならば、国が手を出したことにならず『錬金魔術師協会』の反論を跳ね除けられる。
 相変わらず王国のやり方が汚いと思う一面、己らの保身に走る逞しさに感嘆さえする。
 彼らとの出会いもまた、メニールとして避けられぬものだったのかも知れない。
「回りくどいのは止めよう。君達が何者かは知らないが、大方私達と目的は同じだろう。なら、起こるべきサプライズは免れないということだ。こんなところで騒いではマスターに迷惑だろうし、外に出よう」
 初っ端からいざこざを起こすつもりなのか、メニールが立ち上がって両脇の二人を外に促す。
「話が早くて助かるぜ。俺の直感が、あんたらと出会えた事を運命みたいに感じてやがるんだ」
 男が不敵な笑みを浮かべて酒場の外へと向かう。
 メニールは、コーンスープの代金を払うためにジェイドの前に手を差し出す。
「二杯目はお前の持ちだぞ」
「けち臭いな」
 などと言いながら、代金を払って外に出る。
 ただし、外は外でも酒場の勝手口を開いたところにある裏道だ。
 メニールにしてみれば、逃げるだの正々堂々だのといった己の恥など関係はない。例え相手を出し抜こうとも、目的のためならば敗者の汚名も着る覚悟をしている。
 負けず嫌いのジェイドもまた、そんなメニールに感化されたのか反論を挟まずに裏道を走る。
 男達からは見えない表通りに出て、少し離れた宿屋へと向かう。
「すまない、一晩宿を頼みたいのだが」
 こじんまりとした宿屋の店主に声を掛ける。が、返ってきたのはあまり芳しくない返事だった。
「悪いね。今こんな状況だろ。だから、部屋が空いていないんだよ。ここだけじゃなくて、他の店も満室だ」
 宿屋にとっては盛況なのだろうが、泊まる側にすれば頭を抱える問題だ。ただ、店主は二人を眺め回した後、何を勘違いしたのか口を開く。
「ちゃんとした部屋じゃなくても良いのなら、布団を出して空っぽになった物置がある。俺と妻も親の反対を押し切って逃げてきた口だ、あんたらの苦労も分かるよ」
 恰幅の良い店主が、同情するように腕を組みながら頭を振る。
『…………』
 勘違いされたことを弁解することもなく、夜の砂漠の寒さから逃れる術を見つけて内心で安堵する。
 そして二人は、僅かの布切れを借りて薄暗い物置で身を寄せ合う。


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