ミッション-3
三
病院についてからまず最初に健太に電話を入れた。
『着いたぞ。』
『着いたか。そしたらとりあえず、受付の左の方に“マスター”と言え。』
明弘はそのまま受付に行き左の方に話しかける。
『あのー、すいません。』
『ハイなんでしょう。』
かわいらしい顔で、愛嬌のいい返事だ。
『マスター。』
『こちらへ案内します。』
かわいい顔してこいつもやはりグルなのか、と思った。
案内されたのは一つの部屋だった。
『ここには盲目の入院患者がいます。』
といわれて紙を渡された。
紙に書かれていることは、やっぱり人殺しだった。中には、盲目のお年寄りがいるみたいで、その人を絞め殺して布団で覆い被せろというものだった。外ではさっきの看護婦が見張っているので、問題ないのだろう。
いくらなんでもやっぱり気が引ける。なんだかんだいっても、前回は気付かない間に死んでるし、拒む暇もなかったわけで、今回は本当に自分の手で直接手を下すわけなのだから、相当勇気もいるし罪悪感が生まれるだろう。
どうしよう、と迷っている明弘を見た看護婦は、即座にこう言った。
『うとうとしていたら、すぐにこの場で殺しますよ。』
と言って、ポケットから銃のような物を当てられた気がした。一瞬ひやっとし、急がなければとの思いで、もう扉に手をかけていた。ゆっくりと開ければ、そこには老人が眠っているように見えた。だが、その老人は急に喋り始めた。
『雅之かな?だったらそこにある灰皿とタバコをとってはくれないか?』
見ると、棚の上にはスッカラカンの灰皿と新品のタバコがあった。今からこの人を殺す。だから、最後にタバコぐらい吸わせてやろう、とその老人に渡した。
『すまんなー、ホントに迷惑かけて。どうせもうすぐ死ぬんじゃ、このぐらいええじゃろ。』
と言って、タバコをとろうとしたみたいだったが、目が見えないせいで上手くとれていない。そこで明弘は、タバコの周りの透明な物をはぎ取り、一本とってから老人に渡した。老人は恥ずかしそうに照れ笑いしながら、次はライターを探す。もうすでに分かっていた明弘は、すぐに老人に手渡した。すると、情けない、と言う風にため息を一つついてから、タバコに火をつけた。
老人はタバコを吸い終わったあと、奇妙なことを口にした。
『オマエさんは雅弘じゃないんじゃろ?』
『!?』
明弘は声も出さずに驚いた。
『入ってきたときから臭いで気付いておったよ。香水が雅之とは違うもんでな。』
といって、老人は優しく微笑んだ。
『ワシを殺すんじゃろ、好きにせい。もうすぐ死ぬ身じゃ。いま死のうといつ死のうとそう変わりはせん。むしろ、こんだけ生きてまだもがき生きるのも、嫌じゃ。じゃから、さっさと殺せい。』
孝弘の手はふるえていた。そのふるえていた手は、ゆっくりと老人の首まで伸び、ぐっと掴んだ。
『ごめん。』
と小さく呟いてから思いっきり絞め殺した。まもなく老人はガクリとし、全身がタラーンとなった状態でいた。そのタラーンとなったいる手や足なんかを、布団の中に入れ、部屋を後にした。
『終わりました。』
と言った明弘の目からは涙が落ちていた。
『ご苦労です。』
ときわめて冷静に言った看護婦は、そのまま去っていった。明弘もその後に続くようにして、出口に向かい病院を出た。