殺人生活-5
『次のターゲットは誰にすんだよ。』
勇太がボソッと言った。
『そうだよな。』
『このまんまじゃ英義が死んじまうぞ。』
『分かってるさ。』
二人の間に沈黙が続く。麗亜は、心の中では勇太の身寄りじゃなく今度は自分だと思ってはいたが、やはり顔を浮かべたくはない。
麗亜の家は勇太の家庭のように金持ちではなく、だからといってそんなに不自由なく暮らしていた。そのなかで、勇太の家の事情のような問題を抱えたことはなく、特別殺したい家族がいるわけでもなかった。
『くっそ!どうしたら……。』
すると、またもや勇太がこう提案した。
『何だったら、俺の家族全員殺すか。』
『な……何言ってんだよ、オマエ。』
驚愕の言葉だった。いくら何でも家族全員となると流石に罪悪感が出てくることだろう。それに勇太の家族には罪のない弟の健くんもいるわけだ。まさか、健君も殺してしまうつもりなのだろうか。
『オマエ、弟の健君だっているんだぞ!!』
『知ってるよ。』
『知ってる……って、オマエ。まさか、健君まで!』
『ああ、そうだよ。あいつもいずれは殺ることになるだろうな。』
『オマエの母親はまだ分かるよ。だけど、罪のない弟までもどうしたら殺せるんだよ!!』
『オマエはばかか。殺すんじゃねえ!!食べるんだ。』
こいつは頭がいかれちまったのか。もう誰を殺しても、誰を失っても悲しまないのだろうか。麗亜には勇太の思い、考え、感情が分からなくなっていた。
『なんか理由があるんじゃねえのかよ。』
『ねえよそんなもん。もうすでに一人殺しちまってるんだ、今更そんなこと言ってられるか。』
勇太の言っていることも一理ある。しかし、弟だ。家族だ。何を言っても血を分けた兄弟だ。俺だったら……、麗亜は首を横に振り、心の中で自分には無理だと言っていた。
『とりあえず、次は俺の父親だな。その後、健が気付く前にあいつも片付けるぞ。あっそうだ、家政婦の人も殺さないとな。』
勇太の言葉を麗亜は無視した。そして、その直後にこう切り出した。
『なあ、今度はもう別の関係ない人でいいって。またも自分の身内殺すなんて自分の精神面が持たないって。』
関係の無い人を殺すのもどうかとは思うが、麗亜の考えでは家族の命を自ら消し去るのは言語道断なのだ。
『だけど、あいつらしかいないだろ!!!』
『じゃあ、家族であろうと何だろうと殺すのかよ。』
『ああ、殺すね。』
麗亜はため息をついて、頭を抱えた。
『なあ、もう俺には殺しはできない。殺しの手伝いも無理だ。もちろん、英義にも死んで欲しくはない。だけど……。』
『英義を見殺しにするってのか。』
『見殺しには決してしない!病院に連れてって、見てもらおう。それしか方法はない。』
『それでだめだったらど、、、』
『だめじゃない!!信じるんだ!!!英義は絶対に助かる。』
言い聞かせるようにして麗亜は勇太に言った。勇太のさっきまでの勢いも失せ、渋々納得する、といった雰囲気だった。
しばらくしてから、思い口を勇太が開いた。
『英義には、どう説明するんだよ。』
『全てを打ち明ける。さっき食べたのは人間の肉だって事も、英義が置かれている状況も。』
『医者には。』
『医者には知らない間に薬を飲まされた、そこまでしか言わない。それ以上言ってしまうとこっちが人殺しで捕まっちまうからな。』
二人は動けずにいた。英義に打ち明けようにも、決心がつかない。しかし、やはりこういうときはいつも勇太だった。
『行くぞ。』
いきなり立ち上がり、麗亜の腕をグイっと引っ張った。そのまま麗亜も立ち上がり、二人で一階に下りていった。