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殺人生活
【ミステリー その他小説】

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殺人生活-6




父親は一週間前から一度も帰ってはいない。兄も三日ほど前から友達の家に寝泊まりしている。この家には今現在、一人の家政婦と母親と俺との三人だ。
『おぼっちゃま、お帰りなさいませ。』
『かあさんは?』
その言葉を放った瞬間、いきなり家政婦は笑い始めた。明らかに不審に思った健は、怒り口調で言った。
『何がおかしい。』
中学一年生には似合わないその言葉は、一瞬にして彼女を黙らせた。
『あ…失礼しました。さっきの勇太おぼっちゃまと同じ言葉だったもので。』
『兄さんが?』
『ええ、先ほど出て行かれましたけど、帰ってきて早々に母さんは?と聞かれたもので、つい笑いが……。』
バックをぶつけるように預けた健は、二階に上がっていった。
向かった先は自分の部屋。兄とは別の自分だけのプライベートルーム。その部屋にあるソファーにどかっと座り、大きな50インチのテレビに電源を入れた。
健も兄と同じく頭が良かった。中学校入ってすぐに行われた選抜試験も、486点と高得点をたたき出した。それでも兄の勇太には届くことはできなかった分けなのだが。
勇太の選抜試験の結果は497点と後3点で満点だったほどだ。そのときは、理科が98点、数学が99点で、惜しくも全教科満点とはいかなかった。
そのときの結果が、健には焼き付いて離れなかった。兄を越えようとしたが越えられず、その後も一度も兄の高得点を上回ったことはない。兄の得点は段々下がってきてはいるが、段々勉強への熱の入り具合が薄くなってきている為だった。しかし、いま健が目標に置いているのは、勇太の一年選抜試験の時の結果だ。その結果を抜かない限り、兄に勝ったとは自分では思っていない。
何としても兄を越えたかった健は、中学に上がってからは塾にも行かせてもらえた。しかし、兄は母親に嫌われているため一度も塾に行ったことなど無かった。そのため、自分が塾にまで行って勝ったとしても納得がいかないのだ。そう思った健はつい先日塾を辞めてしまった。
塾を辞めたことで先生方から批判を受けたが問題ない。塾に行ってとった500点よりも、行かずに自学でとった488点の方が健は大切だと思っていた。実際、塾に行かないでも上がっている自分の実力に周りが驚き始めている。この調子で兄を抜いてしまえば周りは自分を敬うようになるだろう。兄を越えた、スーパー天才中学生として。
そして、その名は瞬く間に広がり、有名高校からお誘いが大量にくれば、俺のこの先の将来は間違いないだろう。
そのとき、テレビには政治家が映っていた。政治家は情けなくこちらに向かって体を折り曲げ謝っている。それを健は鼻で笑い、俺はこんな奴には絶対にならない、そう決心した。
少しのどが渇き、ジュースを買いに行こうとした。引き出しを開けると財布があり、チャックを開けると一円玉が二枚だけ。札束入れには図書券が一枚あるだけ。金のない自分に少し情けなさを感じながらも、今月のお小遣いをもらっていないことに気付く。
だからか、と言うことで、母親の元へ。部屋には誰もいなかった為、再び家政婦に問う。
『ねえ、母さんどこ行ったの?』
『美智子様ならパソコンルームにいらっしゃいますよ。』
一階から顔を覗かせ、かわいらしい声で答えてくれた。
その後に、健はパソコンルームに入っていった。
そこには、椅子から崩れ落ちた母の姿。ゆっくりと近づくと背中にナイフが刺さっている。
『母さん!!』
一瞬でパニックに陥った健は、どうすることもできずただ母さんと叫んでいた。すると、流石に変に思った家政婦が上へ上がってきた。
『どうされまし……美智子様!!』
数分してからパトカーが何台か家に止まった。


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