蒼い殺意-15
「もっと小さい頃に会いたかった。」と、彼がつぶやくと、女学生も又
「そうね・・」と答えた。
”これだ!何のわだかまりもない状態の今。これが、俺の求めていたものだ。”
「ハハハ!」と、急に声を上げて笑い出し、女学生をしっかりと抱きしめるとそのまま転げ回った。
「何て素晴らしいんだ!あゝ、このまま時間を、止めてしまいたい!ハハハ。」
高らかに笑う彼の腕の中で、体中の力が抜け宙に浮いてしまうような感覚。女学生にしても初めてのことだった。ともすれば彼の腕からこぼれ落ち、大地に叩きつけられそうな不安を感じてしまう。しっかりと彼にしがみついているつもりが、いつの間にか又力が抜けてしまう・・・。
「いや、いや!」
思わず叫んでしまった女学生。こぼれ落ちそうになる不安から、叫んでしまった。
「えっ、!」と、女学生の突然の言葉に我に返った彼は、反射的に上半身を起こした。
「ごめん!」と、重々しく言う彼に、
「違うの、違うの。」と、言葉の意味を取り違えている彼に必死に女学生は言った。しかし、理性を取り戻した彼はもう元には戻れなかった。瞬時ではあったが幼児の頃に戻った彼だったが、今はもう一人の女性として感じていた。そんな彼の心理状態に気付かぬ女学生は、彼の腕を引っ張り寝転がせた。
しかし今の彼には、同じようにしっかりと抱きしめてはいても、女学生の柔らかい感触だけが伝わり、あの温もりは感じ取れなかった。ひと時のあの世界は、もう彼の心の中に無かった。
”脆いものだ”と、今はもう機械的に女学生を抱きしめる彼だった。そして彼の心の中に、幼い頃に見た恐ろしい光景が浮かび上がった。今日の彼を作り上げた原体験が。
暑い夏の夜、あまりの寝苦しさに目を覚ました幼児の彼が見たものは、両親の交わりだった。苦痛に歪んだ母の表情に、幼児の彼は恐怖心から大声で泣き叫んだ。そのことがトラウマになっているのは、間違いなかった。
彼の変化に気付いた女学生は、彼の腕から逃れようともがく。しかしそんな女学生のもがきが、彼の欲情ー獣の叫びを呼び起こす結果となってしまった。
「嫌っ!」
女学生は、激しくかぶりを振った。
「怖いっ!いつものあなたじゃない!」
女学生の頭の中に、彼とのsexがまるで無かったわけではない。むしろ
“彼がその気になってくれれば、許してもいいか・・”とさえ、考えていた。
夜学生の中で独り浮き上がった存在の彼だった。そんな彼に好意を抱いている己に、ある種優越感を抱いていた。
“彼を理解できるのは、私だけょ。”
級友達は、口を揃えて
「あの子ってさ、変ょね。何を考えてるか、分かんないもんね。」と、不気味がった。女学生も、
「そうねぇ、変わってるわね。」と、応じてはいた。しかし心底では、“彼の本質が見えてないのょ、貴女たちには。”と、半ば馬鹿にしていた。
“彼のsex嫌いを、私が治してあげるのょ。そう、軌道修正してあげるの。”
“私の胸で、彼を抱きしめてあげるの。優しく、髪を撫でるの。時折、軽く髪に口づけしてあげるの。きっと、頑なな彼の心を、ほぐすのょ。”
そんな不遜な思いに、女学生は駆られていた。しかし、こんな暴力的なsexは許せなかった。
“違う!彼じゃない!こんなの、嘘ょ!”
頭を振りながら、女学生は溢れる涙を止められなかった。