投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 674 飃(つむじ)の啼く…… 676 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…最終章(後編)-39

「あなた…?」

そして、自分の手の下にある澱みの手が、ぼんやりと薄くなってきていることに気がついた。

「あ…手が…!」

「分かってる。あまり魂の力を使いすぎるわけにもいかないから…限界まで、自分の力を注ぎ込むんだ」

そして、彼を心配そうに見つめる茜に、彼は微笑んだ。

「どっちみち、あの光を浴びたら、これ以上存在を続けることは出来ないさ…」

そう言った彼の表情は、幸福に輝いているように見えた。それともそれは、辺りを眩しく照らし始めた朝日の見せた、幻だったのだろうか。

「”会えば分かる”と、お前は言ったな」

茜は頷いた。彼は再びさくらに向き直り、幸せな寝顔のようなその顔を見て再び微笑んだ。

「あの言葉は本当だった…」

彼は目を閉じ、ほとんど透けそうになっている顔で天を仰いだ。

「さくらが目覚めたら、伝えてくれ…名前を付けてくれて、有難うと」

無から有を生み出したのは、他でもない、彼女だ。総ての存在の起源である無と言う名に、彼女の心が有という希望を見出してくれたのだ。彼は消え行く意識を抱えて、自分が無に還るのだとは感じなかった。なぜなら、彼女の心の中に、自分の記憶が残るから。輝かしい朝日に解けてゆくゆうは、最後の最後まで、優しげな微笑を留めていた。



目を閉じて詠唱を続ける戦士たちの誰一人として、彼の消える瞬間を見たものは居なかった。ただ、茜の目の前で俯いていた飃の頬から、一筋の涙がこぼれるのを、茜は見た。



そして……

青空に響き渡る詠唱。その響きの中に、小さな声が聞こえた。

「ん……」

そして、戦士たちは、八条さくらの瞳が、再び開くのを見る。朝焼けの光を映して、その瞳がいきいきと、美しく輝くのを。



「飃…?」

彼女は言った。それは小さな声だったが、彼女は生きていた。幽かな声だったが、彼女は生きていた。

「なんだ…?」

答えた声は、涙に潤んでいる。

「空が見える…」

「ああ…見えるよ。戦いは終ったんだ、さくら…」

さくらは目を閉じた。眠るためではなく、微笑むために。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 674 飃(つむじ)の啼く…… 676 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前