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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-38

生みの親が斃れたことで、彼らが相手取って戦っていたほとんどの澱みも、また消滅した。

そして今、澱みに捉えられていた人間達の魂は光となって雪のように地上に舞い下り、ゆっくりと人の体を取り戻して行く。穏やかに、深い眠りからまだ覚めないまま横たわる彼らの横で、戦士たちは、長い長い歓声を上げた。



その全てが、この屋上に在るものにとっては遠いどこか別の地での出来事のようであった。

飃は、あなじが消滅した不思議な感覚に暫しの間捕らわれていた。あの光は飃の中の澱みまで消し去ってしまったのだ。

「まだ…まだ…呼吸がある!」

ゆうが、彼の背後でかすかな歓声を上げた。

飃は振り返り、妻の下へ駆け寄った。

「さくら…!」

彼女は夫の声に微笑むと、目を閉じて浅く速い呼吸を繰り返した。彼は、体温が失われつつあるさくらの手を握り、全身全霊の力をこめて治癒の歌を歌った。



「嘘…うそよ…!」

屋上にたどり着いた茜が、小さな悲鳴をあげてさくらに駆け寄った。

そして、その隣に横たわる覚義に気がついた。

「ああ…!」

その顔に浮かんだ微笑を見て、茜の目から涙が零れ落ちた。何が起こったのか…彼が何をして、死んでいったのかが、何故か分かったから。飃は一身に治癒の歌を歌い、その隣で、小さな少年がさくらの傷口に手を当てて、流れ出る血を止めようとしていた。茜は気を取り直して、その手に自分の手を重ねた。

その後で到着した風炎も、飃の歌声にかぶせて治癒の歌を歌い、次いでやってきた野分や小夜がそれに続く。茜は、小さな少年が、何日か前に自分に話しかけてきた澱みだということに気づいた。その顔には、澱みらしい影はない。目の前の人間の生を願う、真摯な表情があるだけだ。茜は、自分の手の下にある彼の手が熱しているのを感じた。

「あなた…何をしてるの…?」

「僕の中にある人間達の魂の力を少しずつ借りて、彼女の中に生気を流し込む」

「そんなこと…できるの?」

茜は、ゆうの手に自分の手を重ねた。

「僕の中の声が…出来るといっている」



すべての澱みを倒して、屋上を目指した戦士たちは、その光景を目の当たりにし息を呑んだ。そして切実な願いをこめて、一身に、治癒の歌の詠唱に加わった。生き残っていた全ての戦士達が、狗族の言葉を解するもの解しないものに関わらず、同じ旋律を口ずさんだ。

その歌声は、静かに、力強く響き渡り、雲の晴れた暁の空を満たした。

鼓動のようなゆっくりとした旋律が、弱まりつつあったさくらの鼓動を助ける。小さな、とくん、という感覚が茜に伝わってきた。

「助かる…助かるかもしれない!」

そう言って、茜が隣の少年を見ると、その横顔が、うっすらと光を帯びているように思えた。


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