投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 682 飃(つむじ)の啼く…… 684 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

番外編 夕立-2

「いやだ? さっきは『あげる』と言ったろう」
 飃は聞く耳持たず、わたしを担ぎ上げるとソファに下した。わたしのキャミソールをたくし上げ、舌で臍を弄る。
「ぁぅ……」電流が走ったような感覚に、体がひくつく。「飃……」
 彼はすべるような動きで再び私に口づけをした。もう何を以てしてもおさめることができないほどに、体の芯が熱くなっていた。
「くれるか?」
 こくんとうなずいた。
 飃が私を導いて、自分の上に座らせた。ゆっくりとしたうごきで腰を沈める間、飃の手はいつくしむようにわたしの体を撫でていた。
 繋がった喜びに体が震える。飃が、閉じた瞼の上からため息交じりの口づけをした。
 自分が感じているという実感以上に、飃が感じているという事実にかき立てられる。
 ぎこちなく腰を動かそうとする私を、飃の手が導き、時に押さえつける。焦らすように突かれて、胸が苦しい。背中に回した腕の中で、汗にまみれた裸体がなまめかしくうねる。
 不意に外の雨音がすぐ近くで聞こえているような錯覚に襲われた。篠突く雨の中、びしょ濡れで愛を交わしているような気分になる。
「ああ……」
 歓喜の時を待ちわびて、体が期待に震える。もっと深く、あなたが欲しい。心の中の叫びを、口づけに込める。すると、飃が思いに応えてくれた。
「ああ……っ!」
 悦びが、全身を包んだ。波のように、何度も、何度も。
 達した後も、わたしたちは動くのをやめなかった。この瞬間が永遠に続けばいい――声にならない声を上げて、強く飃を抱きしめる。彼もまた、ほんのわずかに震える腕で、わたしの全身を抱きすくめていた。
「さくら」飃の声は、少しかすれていた。「約束を守ろう」
「え……?」気だるい快感を手放したくなくて、小声で答える。
 飃の指先がわたしの頬をそっと撫でた。「式を挙げよう。お前が望んだとおりに」
「うそ」思わずばっと身を起こす。
 飃がくくっと笑った。「嘘などつくものか」
 じゃあ、今日出かけてたのは、そういうこと……?
「人間の結婚には、大変な時間と手間がかかるのだな――それに、たくさんの『式』があることも聞いてきた。すべて、逃さず実現しよう」
「ほんと……?」胸がいっぱいになって、声がうまく出ない。
「結婚式も、金婚式も……生きている限りずっと、お前と喜びを分かち合いたい……そのための誓いなら、いくらでもたてよう」
 飃はそういうと、私の鼻先に小さくキスをした。
「おまえもそうしてくれるか?」
「うん……!」
 わたしは、こぼれそうになる涙をぬぐって、愛する人に口づけた。

 飃とこうして抱き合っていると、喜びも、哀しみも、全てが奇跡だと思える。毎日、小さな奇跡を重ねて、人生は続いていくのだと。
 失われたものは戻らない。けれど、積み重なった奇跡が――いつかは、何かを生むだろう。
 夕立はいつの間にか止み、午後の陽光が、生まれ変わった街を金色に輝かせていた。
 わたしの心を映したかのように。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 682 飃(つむじ)の啼く…… 684 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前