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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-21

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黷は、痛みこそ感じないものの、酷く身体が軋むのを認めないわけにはいかなかった。

あれしきの雷では、結界はともかく黷を殺すことは出来ない。何千人もの人間の魂を身のうちに閉じ込め、無尽蔵の力を手に入れた彼を殺すことは。

しかしそれでも、5ヶ月前の、あの日のことを思い出さないわけには行かなかった。

もう少しで手に入るものが、ぼろぼろと手から零れ落ちてゆく感覚。そして、いまや彼の城にまんまと侵入せしめた、忌々しい人間の小娘と狗族。あろう事か彼の“子供”をたぶらかし、不甲斐無くもそれはあっさり懐柔されてしまった。

屈辱に歯軋りし、彼は傍に居た澱みに命じた。

「あの 人間どもを 連れて来い !」

憎しみが、彼の中に渦を巻いた。今までに感じたことの無い程の苛烈な憎悪の炎が荒れ狂い、さらに勢いを増した。

すべて。すべてを滅ぼしてやると、再び自らに誓うほどに。



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「行って、飃」

「しかし…」

さくらの顔を見た飃は思わずはっとした。八条さくらの瞳に、なにか超然とした光が宿っているのを見たのだ。

「私は、大丈夫だから」

飃はうなずいた。そして、久しく感じることのなかったなつかしい感覚が胸に起こるのをはっきりと覚えた。

それは、かつて彼が盾を持ち、彼女が長柄を振るっていた時に味わった、あの感覚だった。心の中に起こる共振。さくらもそれを感じたのだろうか。彼女は頷き返すと。真っ直ぐに彼を見つめたまま、言った。

「愛してる」

「己もだ」

二人は固く抱き合った。その短い抱擁のあと、二人はそれぞれの敵の元へ向った。

飃は獄の元へ。

さくらは黷の元へ。



飃が階下へ降りるのを見届けてから、さくらは穴の開いた窓ガラスから、地上で戦いを続ける仲間達を、しばしのあいだ見つめた。



そして、目を閉じた。風が彼女の頬をなで、髪を梳いて去っていった。そして彼女は目を開き、意を決して屋上へと続く階段を上り始めた。


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