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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-20

「手荒〜…」

とふくれっつらで文句を言うさくらに、飃は微笑んだ。

「荒っぽいのは嫌いか?」

「嫌いじゃないけどね!」

さくらは恥ずかしそうにいうと立ち上がり、ガラスの欠片を身体から払った。

「ゆう、大丈夫?」

小さな澱みは、窓ガラスに開いた穴から下を見つめていた。顱に会った時から、ほとんど口を聞かなくなった彼は、さくらの質問にも答えようとしなかった。代わりに、彼が新しい疑問を口にした。

「どうして…こうまでして戦う?何故あんなに戦えるんだ、彼らは?」

その問いに答えたのは飃だった。

「命を賭して戦ってまで、護る価値のあるものを知っているからだ」

「それは…何だ?」

彼は振り返った。その目には、真摯な何かが宿っている。真実を求める真摯な期待と、恐れと、羨望が、色鮮やかに目の中で踊っていた。

「それは、雨に濡れた黒土の穣(ゆたか)な薫りだ。それは、童の駆け足のごと愛らしい 川のせせらぎだ。薄暗い森の柔らかな地面を染める木漏れ日の温もり、山山の頂を縁取る朝日の金、水面に休む満月の銀だ。痛いほどに伸びゆく夏草を、労るようにそよぐ風の色だ」

そして彼は、微笑をたたえて彼を見上げるさくらを見た。

「そして、その全てを共に感じることの出来る者たちの住む世界だ…それを護るために、俺たちは戦っている」

いい…なぁ。

小さな澱みは、そっと呟いた。

「いいなぁ」

その小さな身体を、さくらは優しく抱きしめた。かけるべき言葉は、さくらには見つけられない。それでも、彼は抱きしめられたぬくもりに、千の言葉に勝る一つの感情を感じたのだ。

自信は無い。間違っているかもしれないけれど、小さな彼は、その感情が……愛であれば良いな、と、そう思った。

彼は、再び窓際に立つと、下で闘う戦士たちの姿をもう一度見た。彼はさくらに言った。

「黷は、屋上だ」

そして、今度は飃に向き直った。

「そして、お前の敵は、地下室に――」

そういいかけた彼の身体を、窓に開いた穴から現れた触手が捕まえた。

「な…!?」

触手は、捕まえた獲物を見せびらかすように一瞬さくらと飃の目の前で振って見せると、飛び掛って奪還する暇を与えずに、そのまま上に浚っていった。


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