nightmare-2
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彼女は飛び起きた。
辺りを見回す。夢だと分かっていたはずなのに、その夢が眠りを飛び越えて現実の世界にやってくるような気がした。手が震えている。いや、体中が震えている。
荒い呼吸が収まると、今度は恐ろしいほどの静寂が押し寄せてきた。
「茜」
暗闇の中で聞こえた声に、彼女の心はようやく凪いだ。背中に風炎の手が触れて、パジャマが汗で濡れていることに気づく。
「大丈夫か?」
こういうことにはお互い慣れていたから、心配しすぎず、させすぎずに接する術は知っていた。
「ええ…いつものだから」
本当は、いつもの夢とは少し違った。でも茜はそう言い、濡れた髪を掻きあげて浴室にむかった。
「寝てていいからね」
「ああ、眠れないようなら起こしてくれ」
シンプルな言葉に優しさと気遣いを感じて、また幾分か元気が出る。シャワーを浴びると、眠気と一緒に悪夢の名残が消えてゆくようで心地いい。たっぷり30分はそうしてシャワーを浴びて出ると、案の定風炎は眠っていた。そのほうがいい。
そっと寄り添うと、彼は小さな声を上げた。子供みたいに、肩をすくめて、無意識に茜に手を伸ばす。その手を握って、口づけすると、風炎は探し物を見つけたみたいに、柔らかく微笑み、そして再び眠りに落ちた。
この家の何物にも、犯されることの無い彼の香り。シャツ越しに感じる肌は暖かく、きっと滑らかで、傷だらけ。肌の表面を幽かに伝わる、心臓の鼓動はゆっくりで、重かった。
その鼓動の一つ、傷跡の一つ、微笑みと、夢の中の幸せ一つ、満足げなため息一つ、全部、私のもの。
そして、私のこの気持ちは、全て貴方のもの。
そして―そう、そして。もうひとつ、貴方に捧げることのできるものがある。
茜はゆっくりと目を閉じて、今度は静かな眠りの中におちていった。