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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Fanfare 飃の啼く…第25章 -1

―こちら、現場の山本です。

その日、6月28日の朝、日本の国民は見た。

―見えますでしょうか、あちら…ああ、大きい…!20メートルいえ、30はあるかと思われます。巨大な黒いものが、樹の根の様にビルを覆っています!中にいる、会社員及び一般の方の安否の確認は出来ていません。なんと言うことでしょう…あれは一体何なのか…駆けつけた警察官も対処できません。警視庁は会見に向けて動きをみせはじめたようです。我々は、臨海第一ビルのちょうど向いにあるビルの屋上から、今の状況をお伝えしています!

テレビに映ったものは、おそらくこのように形容できる。コールタールにまみれた巨大な樹根に絡めとられた、東京湾を背にして建つ高層ビル。そしてその膨大な根を束ねた屋上に立つ、小さな人影。しかし、その例えは適切ではない。何故なら、あれにはちゃんとした名があるのだから。

黷。

その異様な光景に、人々は戦(おのの)いた。特撮などでは無いことは、チャンネルを回せばすぐにわかった。地上から、上空から、禍々しいそれの姿は克明に撮影されていた。

ついに、動いた。

澱みのなんたるかを知るものはそう思った。細々と人間の生気を喰らって生きてきた矮小な穢れが、一つの総意のもと、日本に生ける統べてに牙を剥いたのだ。

―まって…音声さん、ボリューム上げて…お待ちください、何か聞こえます…



ボリュームなど、あげるべきでは無かったのかも知れない。カメラのピントも、合うべきでは無かったのかも知れない。全国のテレビ画面に大写しになった、歪んだ微笑は、見るもの全てを凍り付かせた。
なんて恐ろしい
なんて暗澹とした
なんて…嬉しそうな笑みだろうか。


『聞け 日ノ本に住まう者共
吾が名は 黷
吾等澱みは 生命に添う死の如く
姿を隠し 今日まで汝等に添いしものなり
聞け
無知にして傲慢なる人間どもよ
迅く 音もなく 情をかける事もなく
我等は汝等の魂を奪う

魂は吾等が糧に

神の骸は灰燼に帰す

そして 吾は新たな混沌をこの世に齎(もたら)そう


望みは 汝等が打ち捨てた汝等自身の神に頼むがいい
零落した姿を 徒に晒すのみの 衰え果てた 旧套墨守(きゅうとうぼくしゅ)たる神々にな!!

聞いているか 国津神共 聞いているか!
無力な人間共の慄きを!
吾には聞こえる!
人間共の阿鼻叫喚が!

鬼哭啾啾が 聞こえるぞ!』

両手を広げた彼の姿は、さながらオーケストラを指揮するマエストロだ。その両手に、掴みきれない人間共の恐怖を味わうように、彼は目を閉じた。


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