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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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nightmare-1

彼女は逃げていた。

自分自身、これは夢だと心の中で感じていた。だって、何回、何十回見ている夢だもの。

彼女は全力疾走で、何処とも分からない、無人の街の中を逃げている。街は、死んでしまった団子虫のように色を失っている。白と、灰色の世界が飛ぶように後ろへ過ぎてゆく。

なのに、追いかけてくる影を引きはなせない。あいつは悠然と、歩きながら彼女を追っている。

なのに幾つの角をまがっても、幾つの通りを渡っても、あの気配をすぐ後ろに感じる。彼女が起きている時と同じように。

「来るなっ!」

悲鳴をあげる自分が気に食わない。恐怖を感じる自分はもっと気に食わない。夢の中だから息があがったりするようなことはない。けれどただ、終わりが無い。その時

―助けて、助けて―

聞き覚えのある声がして、彼女は思わず足を止めた。

「誰!?」

何処で聞いたんだったか。でも、夢の中にこの声が聞こえたのは初めてだ。

―助けて―

「誰?どこに居るの?!」

誰も居ない町に、悪夢の化身以外のものが居るなら、逢いたかった。それにとても懐かしい声―記憶の底に眠るような。初めて聞く、なつかしい声―

「茜」

気がつくと、“あいつ”は茜の目の前に居た。

「違う!」

身体を覆うべき肉と皮を失った、ボロボロの姿で。

「違う!お前じゃない!」

それは、彼女が10年以上父と呼ばなければならなかった、獄という名の化け物だった。何かを求めるように手を伸ばすその指には、ほとんどむき出しの骨にかろうじて腐った肉がついているに過ぎない。

茜は悲鳴をあげ、それに背を向けて逃げようとした。しかし、その時彼女は見たのだ。あの廃病院での戦いで、彼女が見たように思った、光るもの。

―助けて―!

男のボロボロの体の、心臓のあるべき場所には、幾重の鎖に巻かれた光る部屋があった。小さな心臓の形をした鍵と、鎖の牢獄の向こうに、狂おしく輝くいくつもの魂があった。その魂たちが、必死に茜に助けを求めていたのだ。

「あなたは、あなた達は、誰…!?」

―助けて、ここから出して、私達を解放して―



お姉ちゃん!!


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