愛・地獄編-6
突如、何の前ぶれもなくー陽射しの強い日曜日の夕方に、私の恋人だと青年を連れてきました。肝をつぶす、というのはこういうことを指すのでございましょう。唯々驚くばかりでございます。妻などはもう、小躍りせんばかりに喜ぶ仕末でございます。わ、私でございますか?・・そりゃあもう、嬉しくもあり哀しくもあり、世のお父様方と同じでござ今すょ。えぇ、本当にそうでございますとも。
青年は二時間程雑談を交わした後、帰って行きました。穀物を扱う商事会社に勤めるお方で、年は二十六歳の一人暮らしとのことでございました。両親は、九州にご健在で弟一人・妹二人の六人家族ということでございました。
その後娘は、しきりに青年の印象を聞くのでございます。妻が、いくら「いい人じゃないの」と言ってみたところで、私が一言も話さないものですから、娘も落ち着きません。お茶をすすりながら、ポツリと私は言いました。
「いい青年だね。だけどお前、やっていけるのかい?ゆくゆくは、ご両親との同居もあるよ。」
娘は、目を輝かせて「勿論よ、お父さん!」と答えるのでございました。
その夜は、まんじりとも致しませんでした。「勿論よ!」と、言い切った時の娘の目の輝きが、目を閉じると瞼の裏にはっきりと映るのでございます。
それからの私は、まさしく且つての妻でございました。顔にこそ出しませんが、心の内では半狂乱でございました。娘を手放す男親の寂しさもさることながら、実は、正直に申しますと、娘に対して「女」を意識していたのでございます。以前にお話ししたとおり、血のつながりの無い娘でございます。勿論、自分自身に言い聞かせてはおりました。「血はつながらなくとも、娘だ!」と、毎夜心内で叫んでおりました。しかし、崩れてしまいました。脆いものでございます、親娘の絆は。もっとも親娘は親娘でも・・・。
それからの私ときたら・・・。娘の入っていることを承知で、風呂場を覗いてみたり電気を消してみたり、とまるで子供でございました。娘の嬌声に歓びを感じているのでございます。そんなことを、初めの内は間違いと思っていた妻も、度重なるに連れ疑問を抱き始めたようでございます。私の行動に目を光らせるようになりました。そんな時でございました、あの、忌まわしいそして恐ろしい夢を見ましたのは。
或夜のことでございます。私と妻は、一つの布団におりました。が、急に妻が起きあがるのでございます。(あっ申し訳ありません、夢でございます。ご承知おきください。未だ、別の部屋での就寝でございます。)
私の腕の中からすり抜け、誰か男の元に、走っていくのでございます。一糸まとわぬ姿で、その男にすがりつきます。私は妻を追いかけると共に、その男を見ました。とっ!何ということでしょう、あの青年だったのでございます。娘の婚約者でございます。私自身めが、そうなることを望んでいたが為のことかもしれません。その時、私がどんな思いで妻を連れ戻したことでしょう。とても、これだけはお話し致すわけにはまいりません。唯その後、年甲斐もなく激しく燃え、嬌声を発しながら、力のあらん限りをつくし荒々しく、抱きしめておりました。
妻は、そのあまりの声に怯えたのか、激しく悶えながら逃げようといたします。私は、両手で顔をしっかりと押さえつけ、唇を押し当てました。そしてそこから、私の熱い吐息を、そして男を注ぎ込んだのでございます。妻は前にも増して、激しく悶え抵抗します。未だに信じられないことなのですが、抵抗されればされる程に、激情と申しますか劣情と申しますか・・・。
頭の先から足の指先まで全身を舐め回したのでございます。まるでナメクジが這いずり回るが如くにです。仲睦まじかった折りでも、そのような行為に及んだことはございません。どちらかと言えば、淡泊でございました。
大恩あるご主人様の忘れ形見だという思いが、あったのかもしれません。いえ、美しい女人を蹂躙してみたいという思いは、確かにございました。ひょっとして、ここにおられるあなた方のどなたよりも、そういった獣のような行為に憧れておりました。